「天を仰ぐ姿に…」千載一遇のチャンスで好印象を残した南野拓実。英国人記者が見抜いた新たな課題とは?【現地発】

2020年12月15日 スティーブ・マッケンジー

ジョッタがおよそ2か月間の戦線離脱

フルアム戦で後半開始と同時にピッチに立った南野は小さくない存在感を放った。 (C) Getty Images

 フルアム戦で南野拓実がピッチに登場したのは、苦戦を強いられていたリバプールが1点のビハインドを追っていた後半開始直前だった。

 試合開始前に首位を争うチェルシーとトッテナム・ホットスパーが勝点を落としていたため、リバプールにとっては差を広げるために重要な試合だった。そうした状況下にあったとはいえ、ユルゲン・クロップ監督がジョエル・マティプに代えて南野を送り出したのは少し意外だった。

 ハッキリ言ってしまえば、私は彼に「最強のジョーカー」という認識は持っていない。だが、クロップは軽度の負傷はあったにせよ、経験豊富なCBに代えて、南野を送り込むリスクを犯した。それは「ミナミノを入れれば、この試合を変えられる」という揺るぎない信念があったからだろう。

 これまで満足な出場時間を与えられてこなかった南野にとっては千載一遇のチャンス。そこで彼は輝きを放った。後半立ち上がりから明らかにプレーのインテンシティと激しさが増したリバプールにあって、南野は目立つ存在だった。61分にジョーダン・ヘンダーソンが敵エリア内に侵入して決定的なシュートを放ったシーンは、バイタルエリアでの2度に渡る南野のチェックが起点となった。

 試合開始前に右膝を痛めたディオゴ・ジョッタのおよそ2か月間の戦線離脱が発表され、南野の序列は必然的に上がっていた。選手が怪我をすることは好ましいことではないが、流れを変えたことを考えれば、日本代表FWは巡ってきたチャンスでアピールに成功したと言える。

 だが、その45分間では気になるシーンもあった。
 
 リバプールがフルアムを押し込むシーンが増えていた時間帯である。南野はバイタルエリアにできたスペースに果敢に入り込んで、味方からボールを引き出そうと呼び込むのだが、絶好のタイミングでパスを出してもらえなかったのだ。ゴール前にフリーで走り込んでいたにもかかわらず、ボールを持っていたモハメド・サラーがシュートを選択する場面もあった。

 私は南野がもう少し我を出してもいいと思っている。もちろんチームプレーに徹するところは彼のストロングポイントでもあるが、時には、自己表現をするためにより前のめりにプレーした方が、個性がより強く輝くはずだ。この日のリバプールで言えば、下部組織上がりのカーティス・ジョーンズが見せたプレーはまさにそうだった。

 幸いなことにリバプールには、南野の価値を誰よりも知っているクロップがいる。彼は、この日本人が成長段階にあることを度々強調しており、多少の貪欲さ(あるいは強欲さ)を見せることも飛躍の過程だと理解してくれるはずだ。

 おそらくこれからもリバプールでの激しい序列争いは続く。そのなかで自分に何が出来るのかを示し、目に見える結果を残すためにも、南野は"利己的なプレー"にこだわるかは新たな課題とも言えるだろう。このフルアム戦で周囲からボールを貰えずに天を仰ぐ彼の姿を見て、そう強く感じた。

取材・文●スティーブ・マッケンジー(サッカーダイジェスト・ヨーロッパ)

スティーブ・マッケンジー (STEVE MACKENZIE)
profile/1968年6月7日にロンドン生まれ。ウェストハムとサウサンプトンのユースでのプレー経験があり、とりわけウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からサポーターになった。また、スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国の大学で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝に輝く。

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