なぜマドリーではストライカーが育ち、バルサでは育たないのか? 日本のCF不足解消のヒントにも…【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2020年12月03日 小宮良之

「ストライカーは育てられない。生まれるもの」という不文律が

バルサで活躍したエトー(左)もラウール(右)と同じくマドリーの下部組織出身だ。(C) Getty Images

 11月21日に行なわれたビジャレアルとの一戦で、レアル・マドリーのFWマリアーノ・ディアスは開始1分で、右からのクロスにヘディングで合わせ、ゴールネットに放り込んでいる。

 マリアーノは今シーズン、リーグ戦は2試合目の出場だったが、ゴールセンスの高さを見せた。ボールを呼び込み、叩き、ネットを揺らす。その単純な作業において、圧倒的な力を見せられる。まさに、ストライカーと言えるだろう。

 マドリーは、ストライカー発掘・育成の宝庫と言われる。

 マリアーノも、マドリーの下部組織で育っている。他にも枚挙にいとまがない。アルバロ・モラタ(ユベントス)、ロドリゴ(リーズ・ユナイテッド)、ボルハ・マジョラル(ローマ)、へセ・ロドリゲス(パリ・サンジェルマン)、ロベルト・ソルダード(グラナダ)、ラウール・デ・トマス(エスパニョール)など、現役だけで錚々たる面子が揃う。エミリオ・ブトラゲーニョ、ラウール・ゴンサレスは、殿堂入りのふたりだ。

「ストライカーは育てられない。生まれるもの」

 それは、スペインのサッカー界における不文律の一つである。

 そこで、一番大事になるのがスカウティングと言われる。ストライカーの適性を見極められるか。その日にゴールを奪ったかどうか、それでは判別できない。一つ一つの動きや仕草まで、ストライカーとしての適性を見抜くのだ。

 マドリーのスカウトは、慧眼の持ち主と言える。

 もう一つ、チームとしての特性もある。マドリーの下部組織の選手たちは全国のエリート、もしくは世界のスター予備軍と言える。負けることが、絶対に許されない。マドリーの選手として、強者、勝者のメンタリティを身につける。

【動画】マドリーが生んだ"生粋の点取り屋"ラウールのスーパープレー集
 その環境でストライカーであることは、簡単ではない。自らが勝負を決める一撃を決められるか。できなければ、先に道はない。そこで、ストレスへの耐性を身につけられるという。ラストパスを譲ってしまうようなストライカーは惰弱とされる。プレー内容に左右されず、自らのゴールを決める。それを鍛錬されていることで、どんなチームに行っても、ゴールを叩き込めるのだ。

 当然、ストライカーを指南するノウハウも積み重ねられている。反復練習での様々な形のシュート練習、ポストワークでの身体の使い方、ヘディングでのマークの外し方。野性の勘だけでなく、理性的にセンスが鍛えられる。
結果、世界でも突出したストライカー製造クラブになっているのだ。

 一方、プレー内容を追求し、ボールを動かし、コンビネーションを高める傾向にあるバルセロナでは、生粋のストライカーはほとんど育っていない。ロマーリオ、ロナウド、サミュエル・エトー、ダビド・ビジャ、そしてルイス・スアレスなど外から招いた選手たちばかり。ちなみにエトーはマドリーの下部組織出身だ。

 どうしたらストライカーが出現するか?

 日本サッカーも、このあたりの必然と矛盾についてから考察するべきなのかもしれない。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 

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