なぜ川崎は憲剛不在でも勝ち続けられたのか?記録破りの強さを育んだ背景にあるもの

2020年11月26日 加部 究

川崎は中村憲剛不在でもスタイル継承の手応えを得た

今季のリーグ戦で優勝し、4年連続でタイトルを獲得している川崎フロンターレ。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 川崎の鬼木達監督は、ホームにリーグ2位のG大阪を迎え自力で優勝を決められる一戦に、紛れもなく最適のスタメンを送り出したはずだ。主に後半から試合を決める役割を託されて来た三笘薫を最初からピッチに立たせ、鹿島戦で足首を故障し2試合欠場していた家長昭博には「次は出て欲しい」と訴えた。もしこれがカップファイナルなら、出場停止の谷口彰悟だけを入れ替えて臨んだに違いない。

 5-0というスコアは、まさにこの一戦に集中した川崎の底力を浮き彫りにした。しかしそれでも試合後に鬼木監督は言った。

「人の組み合わせにより、いろんなパワーの出し方がある。これがベストだというものは、まだ僕の中には全然ないですね」

 定石と言えばそれまでだが、おそらく本音をしまい込んだ指揮官の言葉にこそ、マネージメントの要諦がある。チームは生き物なので、新しい栄養補給が止まった瞬間に衰えていく。つまりベストメンバーが固定されれば、それをピークに下降線が始まる危険性が高い。Jリーグの短い歴史の中でも、ベストへの過信が長引き停滞を招いた例がいくつか存在する。
 
 コロナ禍による過密日程の影響で総体的に故障離脱が目立つシーズンだったが、実は川崎の被害は他チームと比較してもむしろ甚大だった。何より開幕時に大黒柱の中村憲剛が不在で、絶好調でシーズンインした長谷川竜也が間もなく離脱。中村憲の役割を引き継ぐはずの大島僚太もコンスタントにプレーが出来ず、後半戦に入ると小林悠までが故障。これだけ次々に重要な役者が消えれば、舞台なら延期や中止も検討されそうな事態だった。

 圧倒的なポゼッションスタイルで連覇を築いた川崎も、昨年までは「憲剛のチーム」という色から脱却できていなかった。あるライバルチームの指揮官も「川崎だって憲剛がいなくなれば、あのサッカーは出来なくなる」と見ていた。だが今年のシーズンのフタが開くと、憲剛不在でも川崎は突っ走った。逆にひそかに引退を決めていた中村が「簡単には戻れない」と危機感を覚える充実ぶりを示した。

 実際、今年の川崎では、抜けてしまうと致命傷になる存在はいなくなった。最も影響力が大きいのはジェジエウだろうが、それでも山村和也や車屋紳太郎で補填は効く。反面基盤となる最終ラインは必要最小限の変更に止め、インサイドハーフとワイドアタッカーはコンディションを見極め回転させていく。こうして安定と日替わりのヒーロー誕生というサイクルが確立されていった。奇しくも中村が引退していく時に、川崎は中村憲剛不在でもスタイル継承の手応えを得たし、だからこそ中村も心置きなくユニホームを脱ぐ決断を下せたという見方もできる。
 

次ページ遡れば風間八宏監督招聘を発端に…

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事