昨夏にメッシが突きつけた要求がバルセロナの快進撃を呼び込んだ【バルサ番記者】

2015年03月26日 ルイス・フェルナンド・ロホ

メッシをCFに置くことでは得られない利点を手にしたバルサ。

リバプール時代の絶対的な点取り屋の立場から、3トップの一角となったことで、良さが薄まると懸念されたスアレスだが、周囲の気遣いと指揮官の英断により、本来の凄みをリーガでも披露できるようになった。 (C) Getty Images

 昨季、無冠に終わったバルセロナ。これを受けてリオネル・メッシは昨夏、クラブとの契約延長交渉の際に、代理人を通じてひとつの要求を首脳陣に突きつけた。
 
 新シーズンに向けて世界的なFWを補強しなければ、契約延長にサインはしない――。
 
 個人的にメッシが求めていたのは、友人でもあるセルヒオ・アグエロの獲得だ。バルサの強化部もアグエロのことは高く評価していた。しかし、マンチェスター・シティが放出を渋ったため、ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長は代役として、もうひとりの候補の名を挙げた。
 
 それが、ルイス・スアレスだった。
 
 会合に出席していたメッシの父は、会長の提案に首を縦に振った。それがメッシを満足させるのに十分なものだと、すぐに分かったからだ。
 
 やがてバルサは、リバプールに8100万ユーロを支払ってこのウルグアイ人ストライカーを獲得した。もっとも、スアレスはあの「噛みつき事件」のために10月末まで出場停止処分を受けていたため、シーズン最初の数か月間は練習に明け暮れることを余儀なくされた。
 
 リーガ初登場はサンチャゴ・ベルナベウでのクラシコ。黒星デビューとなったスアレスは、その後も適応するのに苦しんだ。最初の10試合での得点はわずか2。リバプールでゴールを量産してきた彼にしては、あまりに少なすぎる数字だった。
 
 そのため、スアレスは批判を受けることになる。しかしここで彼を救ったのが、スアレス(強力FW)獲得の発案者であるメッシだった。
 
 メッシは、スアレスがプレーしやすいように気を使い続けた。すると、ふたりの連係は向上していく。スアレスは自らシュートができる場面でも、メッシをアシストするようになった。メッシと良好な関係を築くこと――これは現バルサにおける絶対的な掟でもあるのだ。
 
 ルイス・エンリケ監督が、スアレスを当初の右サイドからCFに移したこともプラスに働いた。スアレスは相手CBの背後を狙えるようになり、それがチームの攻撃の幅を広げることにも繋がっていった。
 
 こうして、スアレスは持ち前の得点力を発揮し始めた。マンチェスター・C戦(チャンピオンズ・リーグ)での2得点、クラシコでの決勝点など、今や決定的な試合で決めるのはスアレスだ。
 
 ただ、彼の役割は得点だけではない。CBをひきつけ、ネイマールやメッシのためにスペースを空けることができる。自身が縦へ抜け出して、パスを呼び込むことも可能だ。また、守備時には相手CBとアンカーへ積極的なプレッシングを仕掛ける。
 
 このように、メッシをCFに置くことでは得られなかったプラスを、今シーズンのバルサは手にしたのである。
 
 スアレスの存在は、彼の到来を望んだメッシにも多大な影響を与えた。今シーズンの彼は、チャンスメーカー、アシスト役としての能力をこれまで以上に発揮している。プレーの幅が広がったのである。
 
 メッシが強く要求し、バルサが8100万ユーロを費やした大型補強。これが見事に当たり、スアレスは今、バルサ攻撃陣を牽引する存在になろうとしている。
 
文:ルイス・フェルナンド・ロホ
翻訳:豊福晋
 
Luis Fernando ROJO|MARCA
ルイス・フェルナンド・ロホ/マルカ
スペイン最大の発行部数を誇るスポーツ紙『マルカ』でバルセロナ番を20年以上務め、現在は同紙のバルセロナ支局長。ヨハン・クライフら往年の選手とも親交が深く、ジョゼ・モウリーニョとはボビー・ロブソン監督の通訳時代から親密な関係を築く。
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