連載|熊崎敬【蹴球日本を考える】「フォルランのFK3部作」は駆け引きの妙&「約束」を果たした浦和の公式戦初勝利

2015年03月09日 熊崎敬

ふたつのFKがゴールへの伏線に。

3本目のFKを結実させたフォルランとC大阪。駆け引きの勝利でもあった。 (C) SOCCER DIGEST

 剃刀のように鋭いミドルシュート。東京VとのJ2開幕節で、フォルランがワールドクラスのゴールを決めた。
 
 相手GK佐藤は懸命な跳躍を見せたが、ボールはその努力を嘲笑うような絶妙なコースに突き刺さった。狙ったコースに強く蹴る。キックの質の高さを証明するゴールだった。
 
 キックの精度だけではない。このゴールは駆け引きの勝利でもあった。
 
 ペナルティアーク左後ろでのフリーキック、ボールの前に立った扇原が後ろに落とし、それをパブロが止めたところをフォルランが豪快に蹴り込んだ。つまり彼は、自分の狙いやすいように距離も角度も変えている。
 
 フリーキックから素早くボールを動かしてシュートを撃つ。これは決して珍しいことではない。だがフォルランと仲間たちが繰り出した駆け引きは、この場面だけにはとどまらない。このゴールに至るまでに、彼らはいくつもの駆け引きをしているのだ。
 
 25分、左遠目でフリーキックを得たC大阪は、ボールサイドに3人が集合した。そのひとりのフォルランは敵の壁に近づき、もっと下がるようにアピールした。東京Vの面々は壁を越えたロングボールが出てくると思っただろう。私もそう思った。
 
 だが、騙された。彼らは壁を越えるのではなく、左から壁を迂回するようなプレーを見せたのだ。フォルランは小さく左に出し、隣にいた丸橋がタッチライン付近に回り込んで、ファーサイドに鋭いクロスを送り込んだ。
 
 11分後にも彼らは細工をした。今度は右遠目でのフリーキック。このときもまた3人が集まり、予想外の動きからゴールを攻め落とそうとした。ただ、このときは完全に失敗。左に大きく出したボールが味方に合わず、あっさりとタッチを割った。正直、グダグダなプレーだった。
 
 このふたつのフリーキックは、フォルランのゴールの伏線となった。というのも距離や角度は違うが2種類の細工を見せ、3度目もまた3人が集まったことで「どんなコースで来る?」、「どんなタイミングで来る?」、「だれが撃つ?」と敵を戸惑わせているからだ。この時点で、彼らはすでに心理的に優位に立っている。
 
 このフリーキック3部作を主導したのはフォルランだ。
 南米の人々は駆け引きが大好物で、敵を騙す快感を得るためにサッカーをしているといっても過言ではない。
 
 日本人は狙ったところに正確に蹴ろうとする傾向があるが、南米の人々は駆け引きをして肉体的にも心理的にも敵を揺さぶりながら、ボールを目的地に運ぼうとする。ロナウジーニョは短いパスでも奇妙な格好、表情をして蹴るが、これは敵を欺くという意味で理にかなっているのだ。
 
 少し前まで日本では、正しいフォームでボールを蹴ることが重要視されていた。これは正しい指導とは言えない。仮に狙ったところに蹴ることができても、そのフォームから狙いどころがばれてしまえば、敵に狙い撃ちされる恐れがあるからだ。
 
 キックの質と駆け引き、このふたつによってフォルランのゴールは決まった。私たち日本人が着目すべきは後者だろう。
 サッカーは騙し合い。素直な良い子だけでは、この曖昧模糊としたゲームを制することはできないのだ。

次ページ選手たちは自らが赤いユニホームにふさわしい男であることを証明した。

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