【川崎】秘められた想い。ゴールで天へメッセージを届けた山村和也に見た真のプロの姿

2020年09月14日 本田健介(サッカーダイジェスト)

見事なミドルを突き差す

ゴールを祝福される山村。感慨深い表情が印象的だった。写真:徳原隆元

[J1第16節]川崎5-1広島/9月13日/等々力

 5ゴールで川崎が広島に快勝した一戦、勝利の立役者といえば、2ゴールの田中碧が挙げられるだろう。ただ、CBとして素晴らしいディフェンスを見せ、50分にはエレガントで強烈なミドルを決めた山村和也の活躍も忘れらない。そしてここまで出場機会が限られていた山村には、知られざる期する想いがあった。

 コロナウイルスの感染拡大後、恒例となった試合後のオンライン取材。ゴール後、目を閉じ天を見上げていた山村の表情が気になって、本人に質問をしてみた。今季の川崎のCBは、キャプテンの谷口彰悟とブラジル人助っ人のジェジエウが組み、リーグ戦4試合出場の山村は、先発は13節の清水戦に続く2試合目だった。だからこそ、チャンスを掴めないなかでの活躍に、感慨深いものがあったのではないかと、個人的には考えていた。

 しかし、山村の口から語られたのは、想像もしていなかった強く、深い想いだった。

「今年はちょっと……家庭で3番目の子どもが生まれたのですが、その3番目の子どもを2か月で亡くしてしまって、天国で活躍している姿を見せたかったところで、点を取ることができたので、それでああいう感じになりました」

 この言葉を訊いて映像を見返せば、ゴール後に目を閉じ、天へメッセージを送っている姿、チームメイト誰もが祝福に駆け付けた光景、そしてこの日はスタンド観戦だった谷口が自分のこと以上にガッツポーズしながら喜ぶ姿、すべてに意味があったことに気付く。

 山村はここまで言葉にできない想いを抱えながら、ピッチに立てない日々も前を向き一歩ずつ走り続けてきたのだろう。

 ふと思い返せば、8月19日、11節のC大阪戦でリーグ新記録となる10連勝を達成した際、小林悠にその要因を訪ねると、こんな印象深い答えが返ってきた。

「ナイターの試合の時(C大阪戦)は、僕は午前中にグラウンドに散歩に行ったりするんですが、メンバー外の選手、マナブ(齋藤学)だったりヤマ(山村和也)らが残って走ったりするのを目にしました。試合に絡まない選手がこれだけやっている姿を見て、試合に出る選手がやらないわけにはいかないなと思いましたし、チーム力というか、マナブとかヤマが頑張っている姿を見た時に、なんだか今日は勝てるなと思いましたね。それぐらい、チーム皆が試合に出るために必死になってやっていますし、誰ひとり満足せずにやっていることが結果につながっているのだと思います」
 その後、山村は8月29日の13節・清水戦で、リーグ戦今季初スタメンを飾り、好パフォーマンスを披露。広島戦での先発のチャンスを自ら手繰り寄せていた。

「早く活躍しているところを見せたかったというか、試合に出られない悔しさもありましたけど、そういうところが強かったので、ひとつこうやって、目に見える結果を子どもに届けられたかなと思います」

 山村は広島戦後、こう言葉を続けてくれた。

 弱音を吐きたくなる時、心が折れそうになる時もあっただろう。それでも目の前のことに全力で取り組み、決して準備を怠らず、前へ進み続ける姿を、きっと見てくれていると信じたのではないか。それが広島戦のゴール、そして素晴らしいパフォーマンスへと結びついた。

 これぞまさに本物のプロの姿。山村の背中から多くを感じ、学んだチームメイトも多いはずだ。そして山村の姿勢はこれからも変わらないのだろう。広島戦のゴールはかけがえのない瞬間であり、山村というサッカー選手の生き様を見られた瞬間だったようにも感じる。そして彼のようなプレーヤーが土台を支えているからこそ、今季の川崎は圧倒的な強さを見せられていると、再認識したゲームでもあった。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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