圧倒的な強さでCLを制したバイエルン。ただ、テクニックや創造性はないがしろに…【現地発コラム】

2020年09月08日 エル・パイス紙

監督のメソッドを遂行しようという意識が強すぎて…

他を圧倒してCL制覇を成し遂げたバイエルン。このサッカーが潮流となるのか。(C) Getty Images

 わたしがいくらバイエルン・ミュンヘンは大きなハートを持ったチームと意見しても、同意してくれない友人がいる。もちろん彼らの実力を認めてはいるが、その実践しているサッカーに不満の原因があるという。曰く、ストリートの香りがしないと。

 友人の言っていることが分からないわけではない。圧倒的な強さを見せてチャンピオンズ・リーグ(CL)を制したように、バイエルンが提示したプレーモデルは未来を感じさせる。ただ監督のメソッドを遂行しようという意識が強すぎて、スペースを創出するイマジネーション、局面を打開するトリッキーさ、相手を翻弄するような小生意気なテクニックといったクリエイティブな要素がないがしろにされているのも事実である。

 平たく言えば、彼らのサッカーは先の展開が読めてしまうのだ。だから試合が冗長なものに感じることもある。
 
 そのバイエルンを率いるハンジ・フリックに加え、同じく2019-20シーズンのCLでパリ・サンジェルマンとライプツィヒをそれぞれベスト4に導いたトーマス・トゥヘルやユリアン・ナーゲルスマンといったドイツ人指導者が、戦術の新たなトレンドを作っていることは間違いない。

 彼らの努力とインテリジェンスの高さは特筆に値する。しかし、わたしはあくまで監督の手腕よりも選手たちの足技を堪能したい。だからこそ、CL決勝(バイエルンがパリSGに1-0で勝利)で、先制点を決めた勢いに乗って、ゾーンに入ったかのようにインスピレーションに満ちたプレーを見せていたキングスレー・コマンに交代を命じたフリックの決断を目の当たりにしてわたしは困惑した。

「どうして一番いいプレーを見せている選手を下げるんだ」

 その瞬間、こう心の中でつぶやいていたが、答はもう出ていた。なぜならコマンを後半途中で交代させることが事前にプログラムされていたに違いないからだ。

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳:下村正幸

【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79~84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。
 
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