【鹿島】「どんなに時間がかかっても――」20歳のGK沖悠哉が叶えた夢

2020年08月09日 小室功

腰のあたりをポンポン。それが“頑張れ”の合図に

ジュニア時代から鹿島一筋の沖は、プロ3年目の今季、9節の鳥栖戦で待望のJデビュー。安定感あるセービングで無失点勝利に貢献した。写真:滝川敏之

[J1第9節]鹿島2-0鳥栖/8月8日/カシマ

 20歳の生え抜きGKが大仕事をやってのけた。

 8月8日、J1リーグ第9節の鳥栖戦で、プロ3年目のGK沖悠哉が嬉しいJデビューを飾っただけではなく、チームの今季初のクリーンシートに貢献した。シーズンインからここまで鹿島は公式戦11試合を戦ってきたが、無失点勝利がひとつもなく、一刻も早く嫌な流れを断ち切りたかったのだ。

「子どもの頃からカシマスタジアムで試合を見てきて、いつか自分も(プロとして)ここでプレーし、勝ちたいと思っていた。その夢が叶ったので、嬉しい。失点ゼロはもちろん自分だけの力ではなく、チームみんなの思いがひとつになった結果」

 試合終了のホイッスルがカシマスタジアムに響き渡ると、両CBの犬飼智也や町田浩樹らチームメイトが次々に沖に歩み寄った。真夏の連戦のなか、疲労困憊だったからかもしれないが、喜びを爆発させるような手荒な祝福ではなく、静かなる笑顔の輪が広がっていく。それがかえって無失点勝利の充実感や達成感を物語っていた。

 浴びたシュートは公式記録によると6本だ。後半立ち上がりすぐの2本の強烈なミドル弾も冷静にストップした。

「ある程度、予測していたところにきたので、慌てることはなかったけれど、2本目のシュートはブレていたので、対応が危なかったかもしれない」

 足もとの技術が高く、「一番の持ち味」と胸を張るフィードは安定していたし、クロス対応もまずまず。最後尾から声とジェスチャーで、メッセージを送り続け、及第点以上のパフォーマンスを見せたのではないか。

 曽ケ端準やクォン・スンテといった日韓を代表する経験豊富なベテランGKを擁しているなかで、大抜擢を決断したザーゴ監督は「就任当初から沖や山田(大樹)といった若いGKの成長を感じていた。どこかのタイミングで起用したいと思っていたが、そういう気持ちを芽生えさせたのは本人の力」と、若手の突き上げに目を細める。
 
 昨年12月7日、Jリーグ最終節の名古屋戦で初めてベンチに入った。あれからおよそ7か月、8月1日の大分戦(アウェー)に帯同。ゆっくりだが、着実に初出場の足音が近づいていた。

「早く試合に出られれば、それにこしたことはないけれど、鹿島で試合に出るのが僕の目標であり、夢。ずっとお世話になっている鹿島で試合に出なければ意味がないと思っているので、どんなに時間がかかってもそれを成し遂げたい」

 以前から、このように決意のほどを語っていた沖についにチャンスが訪れたのだ。

「試合に入ってしまえば、自分との勝負でもあるので、もう吹っ切れていた。ソガさんやスンテさんからの言葉は多くなかったけれど、試合前に腰のあたりをポンポンとたたかれて、それが"頑張れ"の合図だと感じとることができた」

 プロとして大事な一歩を記したが、「これで満足することはない」とキッパリ。目指すは存在感のあるGKだ。たったひとつのイスをめぐるポジション争いは熾烈を極めるが、今後も二大巨頭の牙城を切り崩しにいく。

取材・文●小室 功(オフィスプリマベーラ)

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