【横浜×柏】ポステコグルー監督の初志貫徹とネルシーニョ監督の臨機応変。重要なのはどっち?

2020年08月09日 志水麗鑑(サッカーダイジェスト)

“戦術志向のコントラスト”が面白く表われた

横浜のポステコグルー監督(左)と柏のネルシーニョ監督(右)。見応えある熱戦を演じた。(C)SOCCER DIGEST

 好み・考え・性格などが人によってそれぞれ違うことを意味する『十人十色』という言葉は、サッカーの指揮官にも当てはまる。1-1で引き分けた横浜対柏は、アンジェ・ポステコグルー監督とネルシーニョ監督の"戦術志向のコントラスト"が面白く表われたゲームだった。

 横浜のサッカーはひと言で言えば初志貫徹。ポステコグルー監督が標榜するアタッキング・フットボールを就任当初から3年目の今季まで貫き通し、柏戦でも敵陣で猛攻を仕掛け続けた。特に前半はほぼワンサイドゲームだったと言っても過言ではない。指揮官は「試合をほとんど支配していました。勝点3は取れませんでしたが、すごく良いゲームができました」と胸を張る。

 守勢に立たされた柏は、ネルシーニョ監督が後半開始から瀬川祐輔に代えて戸嶋祥郎を投入し、システムを4-3-2-1に変更。抉られ続けた中盤に厚みをもたらし守備が安定すると、62分にはカウンターから先制点も奪う。ひとつの戦術にこだわらずに対応する臨機応変の重要性を表現した見事な采配だった。

 ネルシーニョ監督も「中盤3人のところでもう少し守備を強化する狙いで彼を投入した。前半は中盤のスペースを使われて相手にボールを握られる時間が続いていたので、彼は守備もそうだし、奪ってから前に出ていける特徴のある選手。戸嶋が入ったことで少し流れは変わった」と言う。また、「横浜は非常に攻撃的なチーム。ただ、ネガティブトランジション、ボールを失ったタイミングでは相手の守備の形が揃わない時間は当然ある。ウチとしてはボールを奪ってからそこのスペースを攻めていこうという狙いを持っていた」と狙っていた横浜対策も明かした。

 先制を許した横浜は、ブレない"自分たちのサッカー"が78分に成就する。オナイウ阿道が天野純とのワンツーから、ブロックに入った相手DFの股を射抜くパーフェクトショットを決めた。攻め続けたことが実を結んだ素晴らしい崩しだ。これにはポステコグルー監督も「代わって入った選手も点を取ってくれたし、よくやってくれた」と称える。
 
 ポステコグルー監督の初志貫徹とネルシーニョ監督の臨機応変は、どちらも称賛に値する戦術志向で、どちらのほうが良いという優劣はつけられない。そして両者ともにチームの特性に合った戦い方である。

 むしろ見方を変えれば、横浜に柏のような臨機応変さが、柏に横浜のような"立ち返る自分たちのサッカー"があれば、両軍ともにもっと強くなれるという捉え方もできる。"戦術志向のコントラスト"が面白く表われたことにより、ひとつの考え方に偏り過ぎてはいけない「バランス感覚」が重要と感じさせられたゲームだった。

 たぶん、その「バランス感覚」を会得した時に、連勝街道を突っ走って他クラブの追随を許さないほど、圧倒的な強さを誇示するチームになっているのだろう。

取材・文●志水麗鑑(サッカーダイジェスト編集部)
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