【柏】理想か現実か――吉田レイソルが見せた“もうひとつの顔”

2015年02月25日 鈴木潤

リスクを回避し、5-4-1システムを採用。価値ある勝点1を獲得。

ウイングバックの輪湖(22番)とキム・チャンスに低い位置を取らせ、守備時には5バックの形をとり、全北現代の攻撃を撥ね返した。 (C) Getty Images

 1月のチーム始動当初、吉田達磨監督は「相手を壊しにいくようなサッカーをしよう」と選手たちに伝え、"ボールとスペースを支配する攻撃的なスタイル"を掲げた。厳密に言えば、そのスタイルは監督就任後、一朝一夕に打ち出されたものではなく、吉田監督がすでに高い理想へ向かってサッカーを突き詰めていたアカデミーのコーチ時代から練り上げられたものだ。

だが、ACL初戦の全北現代戦で見せた采配は、決して吉田監督が提唱するスタイルのそれではなかった。ただし、その采配は理想と現実の両面を直視できる指揮官だということを裏付けるに足るものだった。

もちろん、チーム作りに対する理想はある。この試合でも、相手の圧力をパスワークでいなし、自分たちが主導権を握って攻め入ることが理想だったはずだ。しかし、柏は新スタイルへ移行して1か月あまり。チーム作りの初期段階である。

選手たちの前向きな取り組みもあり、新体制発足から1か月という時期にしては、戦術の浸透は思いのほか早く進んでいる。だがそれでも、相手は韓国チャンピオンにしてアジア屈指の強豪・全北現代である。

そうした相手に対し、新スタイルで真っ向勝負を仕掛けるにはリスクが大きく、「高さに対応しなければいけない」「サイドでのアプローチに時間を短縮したかったから、できるだけ選手が近くにいるような形にした」という理由で、従来の4-3-3ではなく、鈴木大輔、増嶋竜也、エドゥアルドという高さのある3枚のCBを中央に置いた5-4-1のシステムを用いた。

さらにはパスをつないでいくには適していなかったピッチコンディションも考慮し、吉田監督は守備的にリスクを回避した戦い方を選択したのだ。

ただし、最初から引き分けを狙いにいったわけではなく、守備的に戦いつつも、後半から武富孝介のポジショニングを修正して攻撃へ転じる場面を作り出し、途中から茨田陽生を投入して勝点3を取りにいく姿勢も打ち出した。

全北現代との試合がトレーニングマッチなら、あるいは以前のように育成年代のチームを率いていたのなら、どんな相手でもスタイルを貫き通し、そこから見出される課題を今後への糧として生かすことはできる。しかし今回はACLの初戦であり、しかもアウェー戦である。

わずか6試合しかないグループステージの初戦を落とすことは、ラウンド16進出に向けて大きなダメージになる。したがって、現在の戦術の浸透状況を考え、布陣も含めた守備的な戦い方を選択し、最低でも勝点1を手にする策を用いたことはプロの監督としては妥当な判断だったと言える。

もちろん、今後も理想は追求していくだろう。だが、理想を追い求めるあまり、勝てないチームであってはならない。全北現代戦は、そんな"吉田レイソル"が別の一面を覗かせた試合だった。

取材・文:鈴木 潤(フリーライター)
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