【名古屋】ここまで8人で11得点の多彩な攻撃も…今季初黒星で見えた“裏側に潜む弱み”

2020年08月02日 今井雄一朗

不運は重なるもので、前田直輝も柏戦で負傷

今シーズンから加入した阿部は、攻撃の核となりつつある。写真:田中研治

[J1第8節]名古屋0-1柏/8月1日/豊田スタジアム

 名古屋にとっては悪循環の極みのような敗戦だった。それも想定外の事態や大きなミスの連発ではなく、掛け違いの集合体としての悪循環だ。敗因ははっきりしているが、しかしすぐさま手を打てるような類のものでもない。なんとも言えない後味の悪さを伴う今季初の敗戦は、無敗だった要因がそのまま"アキレス腱"でもあったことをチームに突きつけるようでもあった。

 新型コロナウイルス感染症にまつわる様々な対応により、まともに全体練習ができるようになったのが30日の木曜日のこと。さらに6節の大分戦で負傷した3選手のうち、阿部浩之と米本拓司が治療に専念することが決まっていた。阿部は右膝の「捻挫のような症状」(フィッカデンティ監督)で、米本拓司はチームの公式リリースにあるように、「左第3腰椎横突起骨折」で全治約4週間。攻守の要として活躍してきた2名の不在は、単純な戦力ダウンとしてそのままピッチ上のパフォーマンスに暗い影を落とした。
 
 不運は重なるもので、この日の豊田スタジアムは長雨の影響か芝の状況が悪く、見た目にも地面がむき出しの部分が多く滑りやすくなっていた。フィッカデンティ監督は選手をかばって「我々のような戦い方をしたいチームが、何故ホームでこのグラウンド状況でプレーしなければならなかったのだろうか」と苦言を呈したが、確かに自慢のサイドアタッカーたちはボールタッチに苦慮し、マテウスも相馬勇紀も普段のキレを出せず。「条件は同じ」とはこういう時に使われる常套句だが、それを得意とするか否かは選手やチームによって違う。自分たちがやりたいサッカーをしにくい条件があれば、相手を優位に立たせることもあり得る話だ。さらに開始9分で前田直輝が負傷し精彩を欠いてしまっては、名古屋の苦戦は、抗いがたい必然にもなっていった。

 それでも粘り強く試合を動かし、失点をしないところから反撃の機を窺うのが今季の名古屋の戦い方だ。だが反撃に上手く転じられなければ、守備への負担は徐々に重く大きくもなっていく。柏はセーフティファーストを絵に描いたようなじっくりとした戦いぶりを90分間続け、前半の途中からはポゼッションのリズムを掴んで支配率を高めていた。前線に起点が少ない名古屋はどうしてもボールを相手に渡してしまうことが多く、そのボールを奪い返す作業に良くも悪くも没頭していった中では、相手に隙を見せる回数も徐々に増えていた。そこに「後半はもっと前向きのプレーを増やそう」と話していた柏のホットラインの思惑が噛み合うと、勝負は動く。

 勝敗を分けたのはFWの決定力だった。柏は71分、こぼれ球を拾ったヒシャルジソンがワンタッチで江坂任に預けると、江坂はほぼノールックに近い形でゴール前にアーリークロスを送った。規格外のパワーとスピードだけでなく、位置取りの巧みさも併せ持つ「ザ・ストライカー」(中谷進之介談)は、2人のセンターバックの間に自らの仕事を行うスペースを作り、勇敢にも飛び込んでくるランゲラックの動きも見極め、クロスを絶妙の足裏タッチでゴールに流し込んだ。トラップでも、ボレーでもなく、ダイレクトパスの要領だった。オルンガはこの日前後半それぞれ1本ずつしかシュートを打っておらず、走行距離も9kmに届いていない。両チーム最多の5本のシュートを放った金崎夢生が10km以上を走り、ポストプレーにも精を出していたことに比べれば、ひどく効率の良いパフォーマンスだ。
 

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