【韓国が見た日本】熊本の女子高生を救助した元Jリーガー、キム・ソンジュンの紆余曲折

2015年02月23日 慎武宏

韓国社会を揺るがす事件に巻き込まれ、“心の傷”を負って日本へ。

城南FCでプレーしていた当時のキム・ソンジュン。昨年4月に韓国社会を揺るがす大事件に巻き込まれた。(C) Getty Images

「韓国Kリーガー、女子高校生を救助」(朝日新聞ネット版2月15日付)。
 
 熊本でキャンプ中の韓国Kリーグの城南(ソンナム)FCの選手たちが、路上で倒れた女子高生を救助したニュースは、海を越えて韓国でも話題になっている。
「女子高生を救った城南の善行、日本でも話題に」(『エクススポーツ』)
「城南FCの選手たちの善行、ヤフー・ジャパンでも"特筆大書"」(『FOOTBALLIST』)
「城南選手たちの善行に日本列島が"フンフン(薫薫=ほのぼの)"」(一般紙『京郷新聞』)
 
 テレビ局『チャンネルA』のニュース番組でも、「城南FC選手団の善行、日本で大きな話題」として紹介された。
 
 オフ日の外出先で偶然、路上で倒れた女子高生に出くわした城南FCの5人。異国の地でも彼らが救急車を呼ぶよう要請できたのは、その中に昨季までJリーグのC大阪でプレーしていたキム・ソンジュンがいたからだった。
 
 キム・ソンジュンは日本語で周辺にいた日本人に救急車を要請し、ほかの4人は着ていたベンチコートを女子高生に着せて救急車の到着を待ったという。キム・ソンジュンにとっては、思わぬところで日本での生活経験が活きたわけだが、そもそも彼は"心の傷"を負ってJリーグに来た選手だった。
 
 2009年にプロとなり、12年から城南でレギュラーとして活躍していたが、昨年4月にサッカー界どころか、韓国社会をも揺るがす"事件"に巻き込まれる。当時、城南を率いていたパク・ジョンファン監督が、とある練習試合の最中に選手たちに暴力を振るっていたことが発覚。その犠牲者のひとりがキム・ソンジュンだったのだ。
 
 アマチュアレベルでも許されない暴力行為が、あろうことかプロスポーツの世界でも横行していた事実に韓国中が愕然とし、加害者であるパク・ジョンファン監督は辞任に追い込まれたが、被害者であるキム・ソンジュンも公の場に姿を見せず、事件について語ることはなかった。
 
 そんななかで昨年6月に突如発表されたのが、C大阪への6か月のレンタル移籍。
「今回の一件で選手が精神的に傷を負った部分があり、それを十分に考慮した。さまざまな状況を考えると、彼が現在の城南でプレーすることは難しい」
 と、当時の城南FC団長は移籍理由を語った。
 
 明確な言及こそなかったものの、暴力騒動をいち早く終息させたいクラブの思惑も少なからず見え隠れしたレンタル移籍であり、メディアも傷心の彼を追いかけることはしなかった。

次ページ事件を知ったセレッソの仲間たちからも「よくやった」。

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事