ウィルシェアはこのまま才能を浪費してしまうのか?【アーセナル番記者】が考える

2015年02月19日 ジェレミー・ウィルソン

問われているのはプロ精神。

ウィルシェアのプロフェッショナリズムに、ウィルソン記者は疑問を投げかける。 (C) Getty Images

 ある一枚の写真が、メディアを賑わせた。
 
 写真の主は、ジャック・ウィルシェア。ロンドン市内のナイトクラブで水タバコを楽しんでいる姿だった。インスタグラムにアップされ、それが新聞に取り上げられたのだ。
 
 友人とスーパーボウル(NFL=米プロアメリカンフットボールの優勝決定戦)を観戦している最中の出来事だったらしいが、タイミングが悪かった。ウィルシェアは足首(くるぶし)の怪我で11月下旬から戦列を離れ、リハビリ中の身。自覚に欠ける軽率な行動だった。
 
 しかも、ウィルシェアの喫煙騒動はこれが初めてではない。タバコをくわえたその姿をナイトクラブの外でパパラッチされたのは2013年10月。その翌年の7月にも喫煙写真を撮られている。場所はラスベカス。ホテルのプールに浸かりながらタバコを吸っていた。
 
 どちらの場合もウィルシェアは非を認め、アーセン・ヴェンゲル監督に直接謝罪して許されている。「同じ過ちは二度と繰り返さない」と殊勝に語っていたが、そのわずか半年後、またしても喫煙騒動を起こしたのである。
 
 もちろん、ウィルシェアは犯罪を犯したわけではない。要は倫理観の問題だ。スポーツ選手として、喫煙はいかがなものか。そして社会的にもどうなのか。英国では法律によって公共の屋内空間が全面禁煙で、喫煙者を見る世間の目は厳しくなっている。
 
 サッカー選手は、いまや社会的な影響力をもったセレブリティだ。だからこそヴェンゲルも「子供の模範になるような行動を」とウィルシェアを諌め、「スポーツ選手としてあるまじき行為」と眉をひそめたのだ。
 
 問われているのは、ウィルシェアのプロフェッショナリズムである。サッカーに情熱を傾け、すべてを捧げているのか。その覚悟があるのか。喫煙で罰則を受けるわけではない。しかし、信義にもとる振る舞いが、選手としての成長を妨げているのではないか。はたしてウィルシェアは、サッカーと真摯に向き合っているのか──。一連の騒動から、こうした疑念が湧いてしまう。
 
 実際、ウィルシェアの成長は、負傷離脱を繰り返すようになった2年ほど前から完全に止まっている。医務室が"定位置"ではそれも当然で、何度もメスを入れている足首には限界説も囁かれる。
 
 アーセナルでの地位は、もちろん安泰ではない。3か月のリハビリを経て、ウィルシェアの実戦復帰は間近と見られているが、ピッチに立つにはポジション争いを勝ち抜く必要があるのだ。サンティ・カソルラやフランシス・コクランが好調でもある現在、中盤の競争は熾烈だ。
 
 ウィルシェアが一躍、その名を轟かせたのは、いまから4年前。2010-11シーズンのチャンピオンズ・リーグでだ。決勝トーナメント1回戦のバルセロナ戦(第1レグ)で、アーセナルを2-1の勝利に導いた八面六臂の大活躍は、まさに衝撃的だった。
 
「シャビやイニエスタを擁するバルセロナのパスサッカーと互角に渡り合った。特大のポテンシャルを秘めた若きスター。ウィルシェアはアーセナルの未来だ」
 まだ19歳だったウィルシェアをそう激賞したのを昨日のことのように覚えている。あれから4年、その特大のポテンシャルは完全に開花していない。
 
 ウィルシェアがこれからどうなるか、それはすべて本人次第だ。才能を浪費してしまわぬようにと、そう願うばかりである。
 
【記者】
Jeremy WILSON|Daily Telegraph
ジェレミー・ウィルソン/デイリー・テレグラフ
英高級紙『デイリー・テレグラフ』でロンドン地域を担当し、アーセナルに精通。チェルシーとイングランド代表も追いかけるやり手で、『サンデー・タイムズ』紙や『ガーディアン』紙にも寄稿する。
【翻訳】
田嶋康輔
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