タイでは前回契約時の5倍の金額に!収益拡大の放映権販売が抱える悩ましい課題とは?【アジア戦略のいま #4】

2020年07月09日 長沼敏行(サッカーダイジェストWeb編集部)

タイ最大手のメディア会社をベースにさまざまな形でJリーグのコンテンツを配信

2019年にはチャナティップの母国タイで親善試合も開催。Jリーグで活躍する自国の英雄に多くの目が向けられている。(C) Getty Images

 Jリーグが2012年に本格的にスタートさせた「アジア戦略」はいま、ビジネス面でも多岐にわたる展開を見せている。プロジェクトの現在地について、株式会社Jリーグ グローバルカンパニー部門の小山恵氏に話を伺った。

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 Jリーグではここ数年、タイ人選手の活躍によって、同選手在籍クラブのホームタウンにおける都市認知の拡大やインバウンド効果などが見られている。「アジア戦略」はビジネス面において徐々に成果を上げ始めている。

 とりわけチャナティップの活躍が顕著な北海道コンサドーレ札幌は、彼を広告塔として多様な仕掛けを見せている。例えば、アイスバーの「ガリガリ君」はタイでも人気商品のひとつだが、現地で販売促進を進める赤城乳業が札幌と「アジアプロモーションパートナー」というタイに特化した形で契約。チャナティップをCM起用するという広告展開もある。ちなみに、赤城乳業は埼玉に本社を構える会社で札幌との関連性は薄いが、タイでの販促活動という流れから地元のスーパースターの活用へとつながった。

 Jリーグの小山氏も、アジア人選手を抱えることのメリットについて次のように語る。
「Jクラブにおいては日本、特に地元の企業にスポンサーセールスをすることが通例だと思いますが、アジアの人気選手を抱えているだけで、アジアに向けてのアピール効果は格段に上がりますし、地元に限らず新しいスポンサーを獲得できるチャンスが広がってくると思います」

 こうした新たな事業機会の創出や新規のスポンサー獲得などとともに、今後収益のさらなる拡大が見込まれているのが放映権販売だ。Jリーグは昨秋、2020年から22年までの3年契約で、Jリーグマーケティングパートナーの電通と海外放映権契約で合意。中国向けにはチャイナ・スポーツ・メディアと、同じく20年から22年の3年契約を交わした。

 こうした動きの舞台裏で、小山氏も昨年、長期にわたり代理店と各国の放送局や配信会社との交渉に従事。多くの放送関係者がJリーグというコンテンツに強い関心を抱いているのを感じたという。

「金額は公表できませんが、タイでは今回、サイアムスポーツという国内最大手のメディア会社が前回よりも約5倍の金額で権利を獲得しました。それくらいの価値を認めてくれているんです」

 映像はサイアムスポーツ社のYouTubeチャンネル生配信をしたり、同社からサブライセンスされた地上波テレビ局でも放送されるという。人気選手の招聘によって生まれた関心を、プロモーションによってさらなるリーグの価値向上につなげ、これを放映権料などでマネタイズへと導いていくサイクルは当然、「アジア戦略」における狙いのひとつ。プロジェクト発足から8年が経過し、確固たる成果が生まれつつある。

「規模感としてはまだまだ小さいですが、とはいえほぼゼロからのスタートと見ればかなり大きくなっていることは確か。今後さらに加速していくと思っています」と語る小山氏も、大きな手応えを得ている。
 

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