“苦笑い”で結果を掴んだ手倉森監督。長崎が理想とは裏腹なリアクションに徹したワケ

2020年06月28日 藤原裕久

昨季の屈辱と過去最大の予算投入「今季は何がなんでもJ1昇格」

2点目を決めたルアンと‟ひじタッチ”をする手倉森監督。(C) J.LEAGUE PHOTOS

「今日は、選手の役割をチームのやろうとしていることに当てはめました。北九州の攻撃に対して、スライドして守りやすく、マークが分かりやすい3バックにして、カウンター狙いっていうのが、ホームらしからぬ今日の我々の戦い方」

 北九州戦後、手倉森監督はそう苦笑しながら、この日のスタイルを説明した。これまでにも「勝つためには割り切りも必要」と言っていたことはある。だが、それはあくまでも試合状況に合わせた判断の話で、チームスタイルだったわけではない。長崎の監督に就任してからの手倉森監督は、攻守両面でボールと主導権を握ることを公言してきていた。

 昨季の天皇杯でも、長崎は3バックと前からのプレスというスタイルを披露したが、それはあくまでも一発勝負という事情があっての判断だ。意外なコメントではあったが、すぐに納得もした。しかし、長丁場のリーグ戦においても指揮官は"リアクション"を厭わないスタイルを堂々と表明している。それほどまでに今季へ懸ける思いが強いのだ。

「今年は何がなんでもJ1昇格」
 この言葉は監督だけではなく、昨季から所属する全ての選手が口にする。過去最大の強化予算を投入し、「1年でのJ1復帰」を公言しながら、クラブにとってJ2最多の20敗を喫しての12位という屈辱を誰も忘れていないのだ。さらなる強化予算を投じて戦力を整えた今季、チームは絶対に昇格を逃すことができない。

 だからこその結果にこだわる戦い方なのだろう。北九州戦のスタメンは、前からのプレス役として富樫、縦へのアップダウンが得意な両ウイングバックとして毎熊と亀川など、それぞれのポジションで求められる役割に応じた個性を持つ選手が起用された。追加点を取るために投入の時間帯を見計らっていたルアンとV・イバルボのコンビによる2点目も、いわば当初から準備していた得点パターンである。

 これらの準備の甲斐もあって、前からボールを奪うことや、攻守切り替えのスピード、相手の良さを消すスカウティングなど、2月の開幕戦でまだ不十分だった部分は、北九州戦で大きく改善されていた。

 後半には北九州の反撃を受けて1点を返され、3点目を取りに行った選手交代も不発に終わり、辛うじての逃げ切り勝ちが精一杯だったのも事実だ。それでも再開初戦で、監督自ら勝ちにこだわる姿勢を徹底し、チーム内外に今年にかける覚悟を示すことはできた。

 まずはこの覚悟を貫き、リーグ序盤に勝点と自信を積み重ねていくこと。それこそが長崎のJ1昇格へ向けた最初の目標だ。

取材・文●藤原裕久(フリーライター)
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