「奇跡なんかじゃない」ドイツ1部昇格を決めたビーレフェルト。“ダークホース”がリーグ首位独走に至るまで【現地発】

2020年06月24日 中野吉之伴

11年ぶりの1部リーグへ

1部昇格を決めた際のビーレフェルトの選手たち。(C)Getty Images

 2019-20シーズンのブンデスリーガ2部から、ビーレフェルトの1部昇格が決まった。第32節で2位ハンブルクがオスナブリュックに1-1で引き分けたため、残り2節を残しながらも、首位ビーレフェルトとの勝ち点差が7ポイントに開き、1位が確定した。

 1部リーグ復帰は、実に11年ぶりで、1部昇格はクラブ史上8度目となる。今季は1試合を残して17勝をあげ、負けはわずかに2敗。ライバルクラブが勝ち点を取りこぼし続けるなか、15節以降は首位の座を一度も譲ることなく駆け抜けた。

 今季の2部リーグは、名門クラブで金銭的にも力のあるハンブルクやシュツットガルト、1部から降格のハノーファーやニュルンベルクが圧倒的に有利とみられていた。シーズン前にビーレフェルトを昇格候補に挙げる識者はほとんどいなかったが、ここ数年の戦績とクラブの変遷を見れば不思議ではない。

 2000年代は1部リーグの常連だったが、2008-09シーズンに2部へ降格すると、翌シーズンにはさらに3部リーグまで落ちてしまう。2013-14シーズンに一度2部まで戻るも、翌年にはまた3部へ降格。2015-16シーズンに再び2部昇格を果たすが、17年にクラブ経営に問題を抱えてしまう。

 年末には2900万ユーロ(約35億円相当)の負債を抱え、もはや破産もやむなしとされるほど厳しい状況にまで追い込まれた。だが、彼らはそこから息を吹き返す。かつてドルトムントのマーケット部で敏腕をふるっていたマルクス・レジェックが、不可能とみられていたミッションに答えを見出したのだった。

 レジェックは「オストベストファーレン(ビーレフェルトのある地域)のきずなのために」と地元企業に共同基金をつのり、数多くの賛同者を見つけることに成功したのだ。彼は「わずか1年の間に2000万ユーロ以上の負債を返すことができたのは一つの奇跡だ」と振り返っていたが、立て直しへの道筋をイメージすることはできていても、それほど短期間で返すことができるとまでは想像していなかったことだろう。

 確かにビーレフェルトは1部に在籍していた時代も、ビックネームが集うクラブではなかった。だが、地域との結びつきはとても強いクラブだ。町の東部住宅街の真ん中にあるスタジアム。ビーレフェルトファンはスタジアムへの道を「アルムアウフトリーブ(アルムへの推進力)」と呼ぶ。

 ファンが吸い寄せられるようにスタジアムに向かうことから、そう名づけられたという。近くの小学生は学校帰りにスタジアムへと向かい、そこで選手と握手をしたり、サインをもらったりすることもある。おらが町の愛するクラブで、町の熱狂を集めるクラブなのだ。だから、地元企業もできる限りのサポートをしようと立ち上がった。

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