【欧州サッカー時事解説】「第三者による選手保有の禁止」

2015年02月10日 片野道郎

移籍金の半分を負担してファルカオの保有権の50パーセントを保有。

ともにドイエンスポーツという投資ファンドの息がかかるロホ(右)とファルカオ(左)。クラブでも選手自身でもない「第三者による選手保有」を、FIFAは段階的に禁止していくという方針を打ち出した。その背景に迫る。 (C) Getty Images

 FIFAのジョセフ・ブラッター会長は、2014年9月24日にチューリヒのFIFA本部で行なわれた理事会で、南米を中心にヨーロッパの一部でも広まりつつあった「サードパーティー・オーナーシップ」(第三者による選手保有。以下TPO)を、段階的に禁止していくという方針を打ち出した。
 
 TPOというのは、クラブでも選手自身でもない「第三者」(投資ファンドなど)が、選手の保有権の一部または全部を持つことを指す。
 
 通常、選手の保有権は契約を交わしたクラブが持っており、契約期間中に選手が移籍した場合、支払われた移籍金は全額クラブの懐に入る仕組みになっている。しかし、投資ファンドなどの第三者が保有権の一部を持っている場合には、その割合に応じて移籍金の一部が第三者に渡ることになる。
 
 簡単な例を挙げよう。
 11年8月、ラダメル・ファルカオがFCポルトからアトレティコ・マドリーに移籍した時、A・マドリーが支払った移籍金4000万ユーロ(約56億円)のうち半分の2000万ユーロ(約28億円)を、マルタに本拠を置く投資ファンド『ドイエンスポーツ』が負担した。
 
 このオペレーションに伴い、ドイエンスポーツはファルカオの保有権の50パーセントを手に入れることになった。その2年後、A・マドリーはファルカオを6000万ユーロ(約84億円)でASモナコに売却する。
 
 しかし、クラブの懐に入ったのはその50パーセントの3000万ユーロ(約42億円)のみ。残る3000万ユーロはドイエンスポーツの手に渡った。つまりA・マドリーとドイエンスポーツは、それぞれ1000万ユーロ(約14億円)ずつ利益を挙げた計算になる。
 
 これがTPOの基本的なメカニズムだ。
 
 A・マドリーは、クラブの財力だけでは手が出ないトップレベルの選手を、投資ファンドの手を借りることによって獲得し、11-12シーズンのヨーロッパリーグ優勝などピッチ上での成功を勝ち取ったうえに、1000万ユーロの利益を手に入れた。
 
 一方のドイエンスポーツも、2年間でプラス50パーセントというきわめて大きな利幅で投資を回収している。この事実だけを見れば、TPOはどちらにも利益をもたらす申し分ない仕組みのように思える。
 
 しかし、話はそう単純ではない。
 
 問題は、投資ファンドが利益を得るのは、投資した選手の市場価値が高まり、高額な移籍金で移籍が成立した場合に限られる点だ。逆に言えば、選手が移籍しないかぎり利益を得られないし、また移籍したとしても投資した時よりも低い移籍金であれば逆に損益が発生する。さらに、もし選手が契約満了に伴ってフリーエージェントになる道を選択すれば、投資はその時点でパーになる。
 
 ここに挙げたような投資ファンドにとってネガティブなケースは、ファルカオのようにポジティブなケースと同じか、それ以上の確率で起こりうる。当然ながら、投資ファンドはそうした状況になるのを避けるために、何らかの影響力を行使しようとするだろう。
 
 TPOという仕組みに対して、FIFAが、そしてUEFAが危機感を募らせる理由は、まさにそこにある。

次ページUEFAは2年前から対立姿勢をはっきりと打ち出す。

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