「今回が一番嬉しい」と漏らした長友佑都。なぜロシア行きは格別だったのか?【W杯アジア最終予選を突破した日】

2020年05月17日 佐藤俊

短期集中連載『アジア最終予選を突破した日』vol.6 日本vs豪州|W杯予選で初めてライバルに勝利した試合

ロシアW杯アジア最終予選で、日本はW杯予選で初めてオーストラリアに勝利。長友は経験者として若手を牽引した。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

 ロシア・ワールドカップ最終予選、日本はオーストラリアに2-0で勝利し、最終戦のサウジアラビア戦を残して6大会連続でのワールドカップ出場を決めた。

 この最終予選突破は日本がいろんなことをブレイクスルーすることになった。

 最終予選の初戦に敗れた国が予選突破した確率は、それまで0%だった。日本は初戦のUAE戦に敗れたが、見事そのジンクスを打ち破った。また、過去予選でオーストラリアに日本は勝利したことがなかったが、今回、見事勝利しての予選突破になったのである。

 ただ、この最終予選には、ここ数年とは異なる風景がピッチにあった。

 南アフリカ、ブラジル大会で活躍した本田圭佑、香川真司、岡崎慎司ら主力たちの姿が、ピッチになかったのだ。その中で彼らと同世代でありながらハリルホジッチ監督の信頼を得て、左サイドバックとしてオーストラリア戦のピッチに立ったのが、長友佑都だった。長友は、過去2大会の最終予選を経験し、ロシア大会予選で3回目の予選突破になった。当時は、30歳、オーストラリア戦でゴールを決めた井手口陽介とは10歳も異なり、ベテランの域にあった。

 そんな長友が試合後に漏らした言葉が、非常に印象的だった。
「今回が一番嬉しいですね。もう格別ですね」

 たぶん、多くの人が初体験のことを印象深く覚えているし、消えないものだが、長友は3回目の今回の最終予選が一番だと笑ったのだ。

 格別の理由は、なんだったのだろうか――。

 当時、長友はインテルでプレーしていた。2015―2016シーズンは左サイドバックの補強のあおりを受け、ポジション争いの機会さえなく、一時は放出要員になった。いろいろ悩んだが残留を望み、コンディション調整して試合で結果を出すことで、ようやくポジションを奪い返すという厳しいシーズンを過ごしたのだ。

 また、代表ではハリルの意向もあり、世代交代が一気に進んだ。ロンドン五輪世代が中心になり、リオ五輪でプレーした若い選手が増え、1試合ごとにメンバーが変わるという状態で戦う最終予選だった。ブラジル大会予選の時のザッケローニ監督はメンバーを固定し、コンビネーションで戦うことを主とし、スタイルを築いたが、ハリルは調子のよい選手優先の現実路線で、長友といえども出場が確保されていたわけではなかったのだ。
 

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