【ロマーリオ/この一枚】神様ジーコに宣戦布告!? そして有言実行のハットトリック

2020年05月09日 徳原隆元

国民の多くが招集を望んでいた

先制点となるPKを決めたロマーリオ(11番)を祝福するリバウド(10番)。どちらがキッカーを務めるか、ふたりの間ではどんなやり取りが? 写真:徳原隆元

「背番号11番、FW、ロマーリオ!」

 2000年9月3日、日韓ワールドカップ南米予選第8節のブラジル対ボリビア戦。雨に煙るマラカナンスタジアムでブラジル代表の先発選手たちが次々と紹介されていく。そしてGKから始まった選手紹介のアナウンスが最後のひとりをコールした時、マラカナンの熱量は沸点に達し、スタジアムは揺れた。

 当時の予選で、ブラジルはかつてないほどの不振に喘いでいた。チームを指揮するのは、徹底した規律とチーム戦術を武器に、国内クラブで結果を出し、満を持してその座に就任したバンデルレイ・ルシェンブルゴ。ところが、希代の戦術家に率いられたセレソンは、周囲の期待とは裏腹に低空飛行が続いていた。

 戦術重視のスタイルは選手たちの個性を消し、チームは本来の力を発揮できずにいた。確かにサッカーにおいて戦術は無視することができない勝利へのカギだ。ただ、ブラジルは世界中のクラブ、代表チームにあって、選手の個人能力がチーム戦術を凌駕する例外的なチームでもある。

 ルシェンブルゴはそうした側面を重視せず、クラブで成功を収めた手法である徹底したチーム戦術をセレソンにも課した。それは勝利するための信念であり、また野心の表われでもあった。彼はブラジル代表という最高の素材を使って、自分が作り上げるサッカーが、どこまで高みへと昇り詰めることができるのかを確かめたかったのだろう。

 だが、セレソンは迷走し、苦境に立たされる。しかも、ルシェンブルゴは"扱いづらい"とされるロマーリオの招集を敬遠し続けていた。ロマーリオは全盛期を過ぎたとはいえ、依然としてゴールへの嗅覚は衰えておらず、天才ぶりは健在。ゴールゲッターとしての能力は疑いようもなく、チームの低迷打開のために国民の多くが招集を望んでいた。
 
 調子の上がらない現実と、膨れ上がるサポーターからの不満。追い込まれたルシェンブルゴは、彼の本意ではまったくなかっただろうが、このボリビア戦で背番号11が代名詞のトラブルメーカーをついに招集した。

 ロマーリオの代表復帰において、話題に上がったのがブラジル代表での得点記録だった。ジーコが積み上げた得点に、ロマーリオが近付いていることを各メディアがこぞって報道した。ただ、オフィシャル、ノンオフィシャルと、どの試合をカウントするのかメディアによってまちまちで、得点差にはバラ付きが見られた。共通して言えたのは、どのメディアの記事でもその差は一桁だったが、1試合で抜くには難しい数字だったと記憶する。

 ロマーリオは復帰戦を前にしてこう豪語する。

「みんなはジーコとの得点差がまだあるように言っているが、俺の感じだと2点差だ。だからボリビア戦でハットトリックを決めてジーコを抜く」
 

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