【番記者コラム】チームの“最適解”を導き出した扇原貴宏の進化

2020年04月27日 藤井雅彦

ロングキックは「蹴りたい」。だが…

独善的なプレーには走らない。フォア・ザ・チームの精神で、今季も戦う覚悟だ。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

 自慢のサイドチェンジが、ここのところ影をひそめている。

 扇原貴宏のプレーである。

 セレッソ大阪に所属し、ロンドン五輪世代として脚光を浴びた20代前半から、正確な技術とスケールの大きな展開力を武器にしてきた。相手のプレッシャーをものともせずに前を向き、糸を引くような球筋で40~50メートル先で待つ味方の足もとにボールを届ける。戦況をガラリと変え、攻撃を加速させていく様子は、日本人ボランチの進化形に見えた。

 それが最近はどうだろう。横浜が15年ぶりにリーグ優勝した昨季、扇原は喜田拓也とともに中盤の底を担い、あくまでも黒子の役割に徹した。守備意識を高く保ち、チームが攻撃している場面でもリスクマネジメントを優先。得意のロングキックよりも丁寧なショートパスで攻撃を組み立てていった。

 以前、聞いたことがある。ロングキックを蹴りたくならないのか?と。ストライカーならゴール、GKならファインセーブ、扇原なら正確無比なロングキックによるサイドチェンジだろう、と。

 すると、こんな答えが返ってきた。

「蹴りたいですよ。ロングキックや展開力は自分の持ち味でもあるので、狙える場面では積極的に狙いたい。でも、それがすべてではない。自分が満足するためだけのプレーでは意味がないし、チームのためにならないプレーならやりません」
 
 自身の欲求を満たすだけのエゴイストにはならない。どんなプレーがチームに利益をもたらすかを冷静に判断し、フォア・ザ・チームを貫くのがプロ10年目で28歳の扇原だ。

 きっかけはひとつではないが、横浜が残留争いに巻き込まれた2018年途中から主将を任されたことは大きな転機となった。歴戦の雄である中澤佑二の負傷離脱を受け、チームは緊急事態に陥った。そこでアンジェ・ポステコグルー監督は扇原にキャプテンマークを託したのである。

「正直、ものすごく重圧を感じていました。F・マリノスというクラブに長く在籍している先輩がいるなかで、副主将でもない自分がいきなりキャプテンマークを巻くことになって……。F・マリノスは一度もJ2に降格したことのないクラブで、その価値も理解していたつもりです。チームとしても個人としても、もがき苦しんだシーズンでした」

 横浜は辛くも最終節に残留を決めた。不本意な結果に終わったのは間違いない。だが、扇原にとってはかけがえのない経験を積む時間となった。
 

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