【回顧録】札幌とミシャの出会い。好成績の裏にあった指揮官と選手の物語

2020年04月26日 斉藤宏則

選手が驚かされたミシャの言葉

2018年に札幌の指揮官に就任したミシャことペトロヴィッチ監督。新天地でも確かな手腕を見せている。(C)SOCCER DIGEST

「このチームはタイトルを狙える」「このチームが、新しい歴史を作るんだ」

 2018年1月、ミシャことミハイロ・ペトロヴィッチ監督が札幌の監督に就任して最初のミーティングでそう発したという。その場にいたわけではないので伝え聞きではあるが、選手たちは一様に驚いたそうだ。

 それはそうだろう。歴史の多くをJ2で過ごし、時折J1に昇格してもすぐにJ2に戻る。札幌はそんな立ち位置のクラブだった。それがいきなり「タイトル」である。しかも前年に16年ぶりとなるJ1残留を果たしたばかりというタイミングだった。

 そもそもの話をすれば、ミシャ就任こそがひとつのサプライズだった。前年の2017年は前述通りJ1残留を果たし、札幌の過去最高成績タイとなるJ1での11位でフィニッシュ。粘り強くハードワークを繰り返し、相手の隙を狙う四方田修平監督(当時)のやり方は、札幌というプロビンチャが持つ資金力、戦力を考えれば合理的であり見事な成績を残した評せる。

 一般的に見て、クラブの過去最高成績を塗り替えたチームが監督を代えることはほとんどない。早い話が、余計なことをする必要がないからだ。だが、札幌はそれを敢行し、広島や浦和で攻撃的なパスサッカーを演じて上位に導いたミシャを据えた。そうしたすべてを総合的に見てのサプライズだった。
 このマネジメントについて野々村芳和社長が当時このように話していたのが印象的だった。

「確かに、普通に考えると監督を代えなければいけないシチュエーションではないのかもしれない。『もう1年、同じ体制で』というのが一般的なのかもしれない。でも、札幌のような地方クラブをこの先、資金力のあるビッグクラブと互角以上に戦えるようにしていこうと思ったならば、他のクラブと同じスピード感で動いていてはいけない。時計を速く進めないと」

 他クラブよりも一歩、二歩と先んじようとするそのスピード感。外部から見ればサプライズとも感じ取れた監督人事も、野々村社長の時間軸のなかでは適切なタイミングだったということなのだろう。

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