リーガの“台風の目”レアル・ソシエダが見せた「サイド攻撃のお手本」【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2020年04月06日 小宮良之

風間八宏監督が率いた川崎フロンターレが典型だった

オジャルサバル(右)やウーデゴー(左)らが繰り出すソシエダの攻撃は魅力的だ。(C) Getty Images

 サイドを崩す。

 その攻撃は、今やサッカー戦術における常道だろう。
 
 しかし、いくらサイドに技量の高い選手を置いて、コンビネーションを作り上げることができたとしても、サイドだけで"かんぬきを外す"のは難しい。サイド攻撃だけでは、そこを分厚く守られると、厳しくなる。サイドチェンジの重要性が語られるが、実際は簡単ではない。よほど、うまくサイドを変えない限り、やはり同じように立ち往生する。

 サイドを崩すには、まず総力で中央を破る仕掛けを見せなければならない。

 今シーズン、ラ・リーガで台風の目になっているレアル・ソシエダは、まさにその点で抜きん出ている。第26節、バジャドリー戦で記録した決勝点はその最たるものだった。

 0-0で迎えた60分だった。右のスローインでボールを受けたノルウェー代表MFマルティン・ウーデゴールは、中央を攻め上がって、相手を引きつけ、ゴール正面のミケル・オジャルサバルにパス。オジャルサバルは相手を自らに絞らせつつ、すかさず右サイドにはたく。敵の最終ラインの間隔が瞬間的に乱れ、スペースが空いた。そして右タッチライン近くでパスを受けたサイドバックが敵のサイドバックとセンターバックにスルーパスを入れ、これを走って受けたオジャルサバルがゴールライン寸前で折り返し、アドナン・ヤヌザイがヘディングで叩き込んだ。

 サイドから中央に敵の人数を集めてから、中を撓ませ、外にいったんボールを展開し、サイドを抉って得点につなげる――。サイド攻撃のお手本だ。
 
 サッカーという勝負において、中央の攻防がゴールに直結するのは、言わずもがな、だろう。しかし、そこは堅牢に相手も守る。城門を閉ざし、かんぬきをかけ、虎口に誘い込み、せん滅するように撃退する。攻撃側が突き破るのは容易なことではない。消耗戦を余儀なくされるだろう。

 そこで、サイド攻撃とセットになる。いかに布石を打つか。例えば、FWがバックラインと駆け引きし、相手の動揺を誘う。センターバックと駆け引きし、コンタクトプレーを続け、敵を消耗させ、スキを生み出す。そこで、ようやくサイドを崩す準備が整う。1対1のような状況になった時に、仕掛けられるアタッカーがサイドにいたら、一気に打ち破れる。あるいは、相手を外し、精度の高いクロスを入れられるだけでも、エリア内で波乱は起こせる。敵をかく乱できれば、必ず活路は開けるはずだ。

 ヨーロッパでは、バルセロナ、アヤックス、マンチェスター・シティ、リバプールなどが、こうした戦い方を得意としている。攻撃的、と表現されるチームが多い。攻撃で先手を取る、ボールを動かす戦い方だ。

 当然、ボールを失うと危険な状況を作られるが、攻め崩すプレーは、選手のプレーに化学反応を起こす。Jリーグでは、風間八宏監督が率いた川崎フロンターレが、その典型だった。サイドを崩すには、中央を攻め、中央を崩すには、サイドを攻める。その変幻が相手を叩きのめし、味方を強くさせるのだ。
 
文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
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