キケ・セティエンのバルサが見せた、クライフ・スタイルへの「原点回帰」【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2020年01月22日 サッカーダイジェストWeb編集部

選手としてクライフ率いる“ドリームチーム“と対戦

キケ・セティエン監督の初陣を1-0で飾ったバルサ。パス総数が1000本を超えるなど、スタイルが変化したのは明らかだった。(C) Getty Images

「自分たちがボールを握り続ける。それ以上の楽しさはない。ボールを持っていたら、得点できる可能性があり、失点することはないのだ」

 かつてヨハン・クライフはその崇高なサッカー論で、世界を席巻している。

「無様なプレーで勝つなら、美しく散れ」

 その考え方は、今もFCバルセロナの理念として息づいている。ボールをつなげることが一番想像的で難しく、だからこそ挑戦する価値があり、楽しい気持ちになれる。その発想が、クライフ主義だ。

 勝てば官軍、負ければ賊軍がはびこるプロサッカーの世界において、その理念は一線を画している。エキセントリックとも言える。しかし、それこそ彼らの正義だ。

 そのクライフ主義の正統な後継者とも言える人物が、新たにバルサを率いることになった。

「私はたとえ勝っても、つまらないサッカーだったとしたら、怒りを感じながら家路につくだろう」

  バルサの監督に新たに就任したキケ・セティエンは言う。根っからのクライフ信奉者。口だけではない。ルーゴ、ラス・パルマス、ベティスと率いたクラブで、有言実行している。
 
 現役時代、選手としてクライフ率いる"ドリームチーム"と対戦し、啓発されたという。その試合、キケ・セティエンは得点を入れて、5-0と大差で勝利している。にもかかわらず、スペクタクルを生むサッカーの回路を目の当たりにし、強く感銘を受けた。

「どの場面か覚えていないだけど、バルサがボールを回し始め、自分たち奪いに行ったことがあって。でも、全くうまくいかなかった。それを彼らはとても簡単にやってのけたもんだから、私は引き込まれたよ。なぜ、こんな風に試合を支配できるんだ!って。彼らは止まることによってプレースピードを上げ、速く見せていた。私は監督になってから、その緩急を選手に伝えようとしたが、最初はうまくいかなかった」

しかし監督として成熟したセティエンは、バルサを率いるだけの資質を備えるようになった。

ベティスを率いた昨シーズン、バルサを相手に4点を放り込んで勝利している。敵地カンプ・ノウでボールを支配し、攻め続けた。それは歴史的な一戦だった。

「セティエンのおかげで、ボールプレーの楽しさを思い出した。彼が監督でなければ、私は引退していただろう」

 ベティスのベテランMFとして、"第二の春"を謳歌するホアキン・サンチェスの賛辞である。

【動画】見事なパスワークからメッシが奪ったグラナダ戦の決勝ゴールはこちらから

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