「足りないことを武器にする」“バスク純血主義”を貫くA・ビルバオの大物食い【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2020年01月16日 小宮良之

今シーズンの開幕戦でバルサを撃破

A・ビルバオは「バスク純血主義」を守りながら、まだ一度も2部に降格していない。(C) Getty Images

 2019-20シーズンのラ・リーガ開幕戦で、バスクの古豪アスレティック・ビルバオは王者バルセロナと矛を交え、終始、戦う姿勢を崩さなかったことで、1-0という価値ある勝利をものにした。

 試合開始から終了まで、足が止まらなかった。前線からビルドアップを遮断。体力的にきつくても、しつこく食らいついた。すり抜けられると、一斉に帰陣。集中的な立てこもり戦で、それぞれのラインでブロックを塹壕のように作り、凌ぎ切った。

 もっとも、守るだけでは飽き足らない。常に逆襲するための要素を残し、前線のイニャキ・ウィリアムスが卓越したスピードでバルサDF陣を狼狽させた。粘着的な攻守があったからこそ、終了間際の決勝点のシーンにつながった。

 87分に投入されたFWアリツ・アドゥリスは前線から組織的にプレスをかけている。それに相手が嫌がるようなそぶりを見せ、名手マルク=アンドレ・テア・シュテーゲンのパスが珍しくタッチラインを割る。アスレティックはスローインから右サイドを破り、折り返したクロスをアドゥリスがジャンピングボレーで合わせ、右足で蹴りこんだ。

 アドゥリスは38歳で、今シーズン限りでの引退を公表しているが、戦う者の矜持を見せた。

 アドゥリスの投入が戦いの仕上げにはなった。しかし、その勝利に結びつけたのは、泥臭く戦い続けた90分間にあっただろう。それが相手にミスを出させ、隙を広げさせたのだ。

 アスレティックはバスク自治州のビルバオにあるクラブで、100年の歴史の中、「バスク純血主義」を守っている。民族的なバスク人、もしくはバスクで生まれ育ったバスク人のみ。限られた戦力で、バルサ、レアル・マドリーと並び、1部リーグを死守し、いくつものタイトルを勝ち取ってきた。

「ACTITUD」

 彼らバスク人選手を象徴するのは「振る舞い、行動」にあるだろう。戦うものとしてどう振る舞うべきか。仲間同士、どう行動するべきか。幼いころから、そこを徹底的に叩き込まれる。そのおかげで連帯し、組織的な戦いを見せ、バルサのような大物をも食うことができる。
 
「アドゥリスは戦いにおいて獣になれる。トレーニングでも、最初に来て、最後に帰る。38歳という年齢で、失ったものはあるのだろうが、その闘争心を我々は必要としている」

 アスレティックの指揮官、ガイスカ・ガリタ―ノ監督の言葉である。

「アスレティックの場合、バスク人選手しかいない。そう限定されることが、むしろ力になっている。外国人がいない、スペイン人すらいない。バスク人だけで戦うしかないから、必然的に腹が据わる。選手たちはバスクの闘志として奮い立つし、誇りを持って戦うことができる。バスク人として、"自分たちのチームのために負けられない"と目標がはっきりしている。少数精鋭というのかな、足りないことが武器になっているんだよ」

 足りないことを武器にする――。それも一つの兵法で、はまった時は極めてすがすがしい。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 
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