「『俺を使ってくれ!』と…」出場時間が限られたFWが千金弾! なぜ加納大は大舞台で輝けたのか?【選手権】

2020年01月13日 羽澄凜太郎(サッカーダイジェストWeb)

指揮官が語った抜擢の理由とは?

決勝でスタメンに抜擢された加納は、それまでに溜め込んでいた想いを爆発させるかのような活躍ぶりを披露した。 写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

[高校選手権決勝]静岡学園3-2青森山田/1月13日(月)/埼玉スタジアム2002

 この選手権で燻り続けてきた静岡学園のエースストライカーが、まさに最後の最後で鮮烈な輝きを放った。加納大(2年)だ。

 加納の左足から火を吹くような一撃が飛び出したのは、1-2と負けていた後半16分だ。左サイドからカットインしてきた草柳祐介(3年)の鋭い縦パスを敵バイタルエリア付近で受けると、相手CBの藤原優大(2年)を背にしながら左へと巧みにボールを持ち出し、「イメージ通りだった」という強烈なシュートを名手・佐藤史騎(3年)が守るゴールの右上隅を射抜いた。

 決勝で値千金の同点弾を決めた加納だが、今大会は決して順風満帆というわけではなかった。押しも押されもしない主力として君臨していた選手権予選終了後に左膝の炎症が悪化し、今大会は今治東との3回戦で後半21分に途中出場。準決勝の矢板中央戦でも22分間(途中出場)だけプレーするにとどまっていた。

 その間に代役を担った岩本悠輝(3年)は、準々決勝の徳島市立戦でのハットトリックを含む5ゴールを挙げる活躍ぶりを披露。それをベンチから眺めていた加納には、「悔しい気持ちがあった」。

「1回戦から外で見る時間が多くて、チームが勝ち上がっていたんですけど、飢えている気持ちがずっとあった」

 それでも加納は腐らずに淡々と出番を待ち続けた。そんな2年生FWの姿勢を指揮官は見逃さなかった。決勝前日の全体ミーティングの前に個別に呼び出し、スタメン起用を告げたという川口修監督は大舞台で加納を抜擢した理由をこう明かす。

「岩本も調子は良かったんです。でも、加納は足の状態も良くなってきていて、前日練習の動きも悪くなかった。あとは、これは僕の直感なんですけど、本人の目がギラギラしていて、『絶対に俺を使ってくれ!』っていうものが見えたんですよね」

 指揮官の先発起用を意気に感じ、さらに岩本からも「頼んだぞと言われた」という加納。そうしたなかで飛び出した同点弾には、周囲への想いも込められていたのだ。

 文字通りの価値ある一撃を本人は、少しエモーショナルに振り返っている。

「試合前からこの大舞台で一発決められれば、自分のキャリアアップに繋がると思っていた。それが実現できた瞬間は、少し自分でも興奮したというか……。なんか滲み出る嬉しさがありましたね。今日は先発起用させてもらって、感謝は結果で返すしかないなと思っていたので、それを形に出来て良かった」

 静岡学園の史上初の選手権単独優勝に大きな貢献をした加納。重圧から解放されたナンバー9は、「今は疲れきっていて、何もしたくない(笑)」と微笑みながら会場を後にした。

取材・文●羽澄凜太郎(サッカーダイジェストWeb編集部)
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