「だったらFWをやらせてくれよ」市船のエースが明かした“涙の訴え”。知られざる快進撃の舞台裏【選手権予選】

2019年11月30日 江國 森(サッカーダイジェストWeb編集部)

壮絶な撃ち合いでライバルを撃破

初の選手権の舞台に挑む鈴木。清水エスパルス入団が内定している。写真:田中研治

 11月30日、第98回全国高校サッカー選手権の千葉県予選決勝が行なわれ、市立船橋が、ライバルの流経大柏を下し、3年ぶり22回目の出場を決めた。

 壮絶な撃ち合いとなったこの試合で、勝負を決める千金弾を放ったのが、市立船橋のエース鈴木唯人だ。

 後半16分に流経大柏に2-2の同点に追い付かれた、わずか1分後だった。裏のスペースに抜け出た鈴木が右足でシュート。これはGKに防がれるも、そのボールがもう一度跳ね返ってくる。「無心で蹴った」という左足のシュートを鮮やかにネットに突き刺してみせた。

「夏までは自分に甘えがあった。チームに迷惑をかけていた」という鈴木の意識が変わったのが、9月15日に行なわれた高円宮杯プレミアリーグ第13節の柏レイソルU-18戦だ。後半、立て続けに4ゴールを奪われ、1‐4の大敗を喫したのだ。

 試合後のミーティングで、波多秀吾監督や数人のチームメイトから「ユイトはまだ100パーセントでやっていない」「もっと守備をできるはずだ」と指摘されたという。

「たしかにそういう部分はあったし、言い返せなかった」というエースは、涙ながらにひとつ注文をつけた。

「だったらフォワードをやらせてくれよ」

 エースの強い口調に、波多監督も応えた。

「わかった。次の試合からフォワードでプレーしろ」

 それまで主戦場だった右サイドハーフから2トップの一角にコンバートされた鈴木は、「言ったからにやる責任がある」と奮起。幅広く動いてチャンスメークをすれば、もちろんフィニッシュにも関与。さらに前線からの守備でも貢献する。

 実際、この柏レイソルU-18戦後のプレミアリーグは、無傷の4連勝。そのなかには、鈴木の2ゴールで流経大柏を破ったゲームも含まれている。

 決勝を前に小さくないプレッシャーがあったと言うが、その上昇ムードのおかげで「試合中も負ける気はしなかった」という。

 そして最後に、2年連続でこの決勝の舞台で敗れているライバルに引導を渡すゴールを叩き込んだ10番は、自身初の檜舞台に向けて、こう抱負を語った

「ようやくスタートラインに立てた。残り1か月いい準備をしていきたい」

 この冬の主役候補のひとりが、満を持して選手権のピッチに立つ。

取材・文●江國 森(サッカーダイジェストWeb編集部)
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