明日、ルヴァン杯決勝! 名勝負、名シーンを生み出す“カップ・ファイナル”の系譜

2019年10月25日 加部 究

Jリーグカップは、リーグ戦に先んじて空前のブームに点火する役目を果たした

毎年、満員のスタンドで盛り上がるリーグカップ決勝。今年はどんなドラマが見られるのか。写真:田中研治

 カップ・ファイナルを好むのは、必ずしも日本人だけではない。
 サッカーの母国イングランドでも前世紀終盤までは、FAカップ決勝が最も注目を集めるイベントだった。世界中のフットボールファンは、リーグ戦の重みを噛みしめるとともに、ノックアウト方式ならではの醍醐味に酔いしれる。リーグ王者の凄さが語り継がれる一方で、究極の一発勝負はドラマとして鮮明に記憶されていく。1970年メキシコ・ワールドカップ準決勝のイタリア-西ドイツ戦が「Game of the century」に選ばれたことに象徴されるように、シナリオの展開がより深く心に刻まれていくのは明日なき戦いで、ファイナルはその究極の舞台となる。

 現在日本では3つのカップ・ファイナルで大観衆を約束されている。天皇杯、ルヴァンカップ(Jリーグカップ)、そして全国高校選手権だ。高校選手権の人気はアマチュア時代から根強く、2014年度決勝は富山一-星稜と関東には無縁のチーム同士の対戦となったが、48295人の観衆が東京・国立競技場に詰めかけた。その後国立が改修に入り舞台を埼玉スタジアムに移しても3年連続して4万人以上を記録しているから、決勝戦に限れば浦和レッズ以上の集客力を示している。ファンを魅きつけるのは、競技の水準というより、3年間過ごした仲間とともに描く汗と涙が込められた筋書きのないドラマなのかもしれない。

 一方プロだけが参加し、その頂点を決めるJリーグカップは、実はリーグ戦に先んじて空前のブームに点火する役目を果たした。10チーム参加の第1回では、後発の鹿島がジーコを牽引車にベスト4に進出。準決勝では本命のヴェルディ川崎と対戦した。そして64分、カズ(三浦知良)に先制ゴールを許した直後のことだった。ヴェルディの選手たちが派手に喜びを表現し、三々五々自陣に足を運んでいるのを確認すると、ジーコは即座にキックオフをしてゴールを奪ってしまう。結局主審が笛を吹いていなかったためにゴールは認められなかったが、さらにジーコはFKでヴェルディゴールを脅かすなど鬼気迫る意地を見せて最後まで王者を追い詰めた。思えば、人気実力ともに抜けていたヴェルディの独走を阻止しようとジーコが見せつけたプライドが、プロ移行後の鹿島の礎となったに違いない。

 Jリーグカップは大方の予想通り、第1回からヴェルディが3連勝を飾るのだが、4連覇を阻止したのは決勝戦3度目の挑戦となる清水だった。雨の落ちる国立で19時キックオフの試合を動かしたのは、現FC東京監督の長谷川健太。ゴール正面で切り返し左足を一閃した。さらに清水は澤登正朗のFKをオリバが頭で合わせて突き放す。だがヴェルディも残り3分でカズのCKを活かして延長戦に突入。清水は延長開始早々にサントスが勝ち越すが、ヴェルディも延長後半にビスマルクが追いつき3-3。両チームともに5人ずつが蹴ったPK戦は、ヴェルディのマグロンだけが外して初めて王座が動いた。
 

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