【山形】「自分たちのサッカー」ではなく「正しいハードワーク」で

2014年12月07日 熊崎敬

千葉のパスをサイドに追い込み数的優位で囲む。

磐田、千葉と格上を連破して4年ぶりのJ1昇格を果たした山形の勝因とは―—。 (C) SOCCER DIGEST

「この1年、いろんな選手がハードワークした結果が、J1昇格につながりました」
 30分近くに及んだ試合後の記者会見、山形を4年ぶりのJ1に導いた石崎監督は「ハードワーク」という言葉を幾度となく口にした。

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 たしかに山形の選手たちは、千葉よりもハードに働いた。試合後の選手たちが、判で押したようにハードワークについて語っていたことからも、それが選手の心と身体の深いところに浸透していることが実感できる。
 
 もっとも、ひたすらハードに働けば試合に勝てるほど、サッカーは甘くない。山形が磐田に続き、千葉という格上を倒すことができたのは、単にハードワークしたからではない。正しくハードワークしたからだ。
 
 5バックを敷く山形は、攻めても守ってもサイドを基点にプレーする。
 
 攻めてはウイングバックを中心にサイドで数的優位を作って、時間と陣地を稼ぐ。守っては縦のコースを切り続けて千葉のパスをサイドに追い込み、数的優位で囲む。
 
 サイドを使うのは、敵陣でパスを奪われても一気にゴールを突かれることが少ないからだ。すぐに囲み返し、タッチに逃げることができる。また守備では中央突破されるより、サイドからの放り込みの方が対応しやすい。
 
 サイド付近でボールが動くと、プレーを切りやすい。これは山形にとって都合がいい。ゲームがオープンな攻め合いになるほど、テクニックで上回る千葉のペースになるからだ。
 
 前半は単調なロングボールの蹴り合いも多かったが、これについても「千葉が蹴ってきてくれて楽だった」と石崎監督は振り返った。
 つまり90分のほとんどが、山形のリズムで進んだ。つまり敗れた千葉は、相手の土俵でゲームをしていたのだ。
 
 彼らは敵に前に立たれると根競べもしないまま、すぐに横パスを出していた。パスの角度、長さ、テンポにほとんど変化がない。わずかな隙を縫って強い縦パスを森本に当てたり、ドリブルで中央突破を図る場面は皆無で、変化がないことに気づいていないし、変化がないことが山形を利しているということにも気づいていない。
 
 これが日本に蔓延する「自分たちのサッカー病」だ。
 
 ただ漫然とゲームをして負け、終了のホイッスルと同時にピッチに崩れ落ちる。わたしはそういうゲームを前日、埼玉スタジアムで見た。
 
 日本サッカー界には、タレントが揃ったチームほど頭を使わなくなるという不思議な傾向がある。勝負が読めず、大胆に仕掛けられず、やるべき課題を先延ばしにして、最後になって焦り、自滅する。
 
 これとは反対に、日本サッカー界ではタレントが揃わないチームほど頭を使う。
 J1昇格を果たしたのは、湘南、松本、山形。いずれも大企業の手厚い支援がない、小さなチームだ。お金のある千葉、磐田は山形に足下をすくわれ、京都に至っては26ゴールを叩き出したストライカーを持ちながら、プレーオフにも進めなかった。
 
 お金がないほど結果が出るJリーグ。これは健全なプロリーグと言えるのだろうか。
 
 石崎監督は小賢しい戦術論を語らず、だれにでも伝わる言葉でしっかりとサッカーの本質を語る。
 記者会見で彼はいいことを言っていた。
「日本は情報量が多いせいか、頭でっかちになっている人が多い。下手な選手が必死に戦い、それに刺激されて上手い人も戦うようになれば、日本サッカーも良くなると思います」
 
 敗れた千葉、磐田の選手は、しっかりと噛みしめるべきだろう。
 
取材・文:熊崎敬
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