「“顔”を務めるだけならアトレティコに戻りたくない」F・トーレスの言葉から考えるフットボーラーのセカンドキャリア【コラム】

2019年09月21日 エル・パイス紙

現役時代とのギャップからくる反動が大きい

8月に現役を引退したF・トーレス。そのセカンドキャリアに注目が集まっている。(C)SOCCER DIGEST

 フェルナンド・トーレスが日本で現役を引退した。彼は昨今のフットボール界には珍しいほど誠実かつ思慮深い人格の持ち主だが、現役選手として最後に残したコメントが、またいかにもそんな彼の人間性を映し出していた。

 自らの将来についてF・トーレスはこう語っている。「もっと視野を広げて人間としての幅を広げなければならない。そのためにはいろいろなことを勉強しないとね。将来の選択肢としてアトレティコ・マドリーへ復帰することはあるけど、クラブの顔を務めるだけなら戻りたくはない」

 過去の栄光にすがるのではなく、自らの力で道を切り拓くことで今後の人生を歩んでいきたいという彼のメッセージは、何事においても表面的なロジックで議論されがちな現代社会に対する強烈なアンチテーゼのようにも聞こえた。
 
 フットボールは戦術面、取り巻く環境面とも年々複雑化し、それは現役時代にいくら偉大な功績を収めた人間であっても、その名声を食いつぶすだけではセカンドキャリアでも成功を得ることは難しいレベルになっている。だからこそアトレティコのシンボルとして人気と名声を欲しいままにしたF・トーレスのこの言葉は、それだけ重要な意味を我々に問いかけている。

 現役引退後もフットボールの世界に身を置き続ける人間だけではない。他の仕事に就いている元選手にとっても、新たな環境への適応は、第2の人生を送るうえで大きなハードルとして立ちはだかり続けている。

 そしてその重要な要因になっているのが、現役時代とのギャップからくる反動の大きさだ。引退選手たちがスムーズにセカンドキャリアへの移行ができるよう、クラブは現役中から準備を行なえる環境作りを推進する時期に来ているのかもしれない。

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳:下村正幸

【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79~84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。
 
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