“南米の伏兵”パラグアイをも上回った森保ジャパンの「局面の強さ」【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2019年09月09日 小宮良之

敵将は「突破力がある」と日本の10番を称賛

パラグアイ戦ではとりわけ前半に流れるような攻撃を披露した森保ジャパン。その中心にいたのは、この中島だ。写真:茂木あきら

 9月5日、茨城。日本はパラグアイを相手にほとんど何もさせず、2-0で勝利を収めている。

 立ち上がり、日本はパラグアイの頭をひしいだ。兵法で言う「先手を取る」という戦い方だろう。前線からの激しいプレッシングで、相手のつなぎを分断。ボールを握ると、スピードとテクニックで勝るコンビネーション攻撃を仕掛け、圧倒した。

 パラグアイのエドゥアルド・ベリッソ監督は、「攻撃し続ける」ことを信条とする天才戦術家、マルセロ・ビエルサの愛弟子の一人である。かつてスペインのセルタを率い、オールコートに近いプレッシングでボールを奪う一方、怒涛の如く敵陣内まで攻め寄せ、FCバルセロナをも苦しめた。絶対的にイニシアチブをとるサッカーだ。

 当然、パラグアイは後ろからつなげようとし、前線から守備も仕掛けたが、空転した。

「我々はフィジカル的な問題を抱えていた。プレーリズムを維持できなかった。(南米からの)長距離の移動や時差も影響していたと思う」

 ベリッソは会見で悔し気に言っている。

「集団組織としては、ほとんど機能していなかった。自陣でしかボールを奪えず、敵陣でプレーする時間が少なかった。後半は配置も変えて、改善することができたが……」

 結局、30分までに2-0とした日本は、その時点でほぼ試合を決したと言えるだろう。

 森保一監督としては、これまでの戦い方を踏襲している。攻守一体の理論で、敵にプレッシャーを与え、防御線を越えさせていない。攻撃は迅速に的確に個人技とコンビネーションをミックスさせていた。日本人選手の特長であるスピード、テクニック、そして連係度の高さを十分に生かす戦い方だ。
 
 選手として際立ったのは、やはりポルトに所属する中島翔哉だろう。左サイドに位置したが、中央寄りにポジションを取ってボールを受けると、次々にチャンスを作り出した。とりわけ、ボランチの橋本拳人との呼吸は良く、2得点ともその形だった。また、自陣内から力強いドリブルで仕掛け、相手を振り切りながら、決定機を作るシーンもあった。その迫力は、両チームを通じても抜きん出ていた。

「スピードがあり、縦の突破力がある」

 ベリッソが最も高い評価を与えたのも、中島だった。

 日本はパラグアイという南米の伏兵を相手に、戦術的に上回ったと言える。先手を取ったまま、その優位を動かしていない。そして中島のような選手を要所に配し、局面での勝利を全体での勝利につなげた。

「選手たちは球際のところから戦い、1対1で怯むことがなかった。局面を制することによって、相手より常に一歩速くプレーを制し、勝利につながったと言える。守備も、攻撃も良かった」

 試合後、森保監督の言葉である。

 後半は、交代選手のアピールタイムのようになってしまい、攻め急ぐ形が多くなった。そこは課題だろう。しかしフィジカル面の優位を差し引いても、パラグアイを相手に地力で勝利を収めたのも事実だ。

 そして9月10日、ミャンマー戦。森保ジャパンは、2022年ワールドカップに向けた真剣勝負に踏み出すことになる。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 
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