【昇格プレーオフドキュメント】「5トップ」と「走力」の結実――2012年・大分

2014年11月29日 週刊サッカーダイジェスト編集部

0-0のまま時計は進んだがそれでも焦りはなかった。

86分、カウンターで抜け出した林が絶妙なループシュートを決め、これが『J1復帰弾』に。 (C) SOCCER DIGEST

 J1昇格プレーオフが11月30日に幕を開ける。J2の3位から6位までの4チームがトーナメントで争う現在のフォーマットになって今年で3年目。J1昇格へ残る1枚の切符を巡る激闘は、12年に大分が、13年は徳島が制し、歓喜に酔いしれた。
 
 熾烈を極め、ドラマに満ちたこのラストバトルを『週刊サッカーダイジェスト』のアーカイブから振り返る当企画。
 
 最初にお届けするのは、リーグ戦でもっとも順位の低かった6位・大分が"下剋上"を成し遂げた12年プレーオフの決勝レポートだ。大分に4年ぶりのJ1昇格をもたらしたのは、田坂監督が用意した「秘策」だった――。
 
※週刊サッカーダイジェスト2012年12月4日号より
 
――◆――◆――
 
 前半を終えて0-0。とはいえ大分は、パスワークと個人技を高い次元で融合させた千葉に、一方的に攻め込まれていた。米倉や山口のヘッドなど、ヒヤリとさせられる場面も何度かあった。よく耐えたが、大分のチャンスは皆無に等しかった。
 
 ハーフタイム、田坂監督の指示が選手たちを奮い立たせる。
「みんな、よく耐えた。決してやられてはいなかった。しかし、なにもやれていない。攻める時はシャドーも、ワイドも、3バックも前へ出て行こう。(昇格するためには)点を取らなければいけない。そのためにも走れ。走れば勝てる!」
 
 前半は失点せずに凌ぐというミッションを達成した。とはいえ引き分けでは、リーグ戦で成績が上位だった千葉がJ1に昇格してしまう。後半は、耐えながらいかにゴールを狙うのか。それがテーマになった。
 
 スコアレスの状態が続くと、選手たちも少しずつ予感めいたものを得ていった。GKの丹野は言う。
「前半を凌げて、後半の立ち上がり15分まで耐えられたところで、『いけるかな』という気持ちになれた」
 
 それは大分の選手たちの共通した思いだった。
 
 時計の針が進むごとに、点を取らなければいけないという呪縛に縛られていきそうなシチュエーションだが、ピッチ上から焦りは感じられなかった。選手が倒れても、急いて起き上がらせようともしない。
 
 残り10分。だが選手たちは、「むしろ、まだ10分ある、と思ってプレーしていた」(宮沢)。ここからチャンスが来ると踏んでいたのだ。
 
 大分はあらゆる状況を想定して練習をしていた。「0-0でいけば、千葉にプレッシャーがかかり、もしも守りに入れば、ウチに必ずチャンスが来ると思っていた」(田坂監督)と、残り5分用の策も練っていた。
 
 ゴールを奪うための布石が打たれていく。木島に代えて林、そして84分にはDFの土岐田を下げてFWの高松が投入される。森島と林が前線に張り出し、そのやや後方に高松が入る。サイドの三平とチェ・ジョンハンも高い位置を取る。
 
 5トップの布陣だった。
 
 そして86分、「練習していた形に持ち込めた」(宮沢)というゴールが生まれる。宮沢のフィードを、高めの位置に残っていた安川がヘッドで前線に送る。これをハーフウェーライン付近にいた森島が、「タケさん(林)が動き出しているのが目に入り、すぐボールを送ろうと思った」とパスを出す。

そして、CBのふたりの間を抜け出した林が冷静に、ループシュートをゴールに沈めた。
「前線に残っているように言われていた。オフサイドかと思ったが笛が鳴らず『行ける』と思った」(林)

次ページ決勝ゴールが決まる直前に村井と林が見せた『走り』

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