【コラム】3つの顔を持つ男、グアルディオラが挑み続ける「未知なるチャレンジ」

2019年08月29日 エル・パイス紙

ペップに拒否反応を示す人間には3タイプが

クラブ史上初のプレミア連覇に導いたグアルディオラ。そのサッカーも魅力的だった。(C)Getty Images

 ジョゼップ・グアルディオラがいまで挑み続けていることは、フットボールというこのスポーツを未知の次元へと押し上げる壮大なチャレンジだ。

 この世界にはグアルディオラに極度の拒否反応を示す人間が3タイプ存在する。マドリディスタ、スペイン国家主義者、そして結果至上主義者だ。センセーショナリズムが蔓延する現代社会において、ひとつのフットボールスタイルを愛するよりもひとりの人物を嫌悪することのほうがよっぽど楽なのだろう。しかし間違った角度から物事を判断することによって、その人物が成し遂げている功績を軽視する風潮に私は強い違和感を覚える。

 それほどグアルディオラが成し遂げていることは偉大で、また困難なものだ。我々は美しいものを目撃すると心を奪われる。しかしひとたび完成形を目にすると、まるでそれが当たり前に感じて次第に感動の度合いが減少していく。そんな時、大半の人間は美しいことを継続して効率的に進めることがどれだけ困難な作業であるかという事実を見過ごしがちになる。

 マンチェスター・シティが展開するサッカーにしてもその華々しいプレーの影には、才能だけでは語れない、それこそ何百、何千時間もの鍛錬、分析、探求、理念の共有が前提としてあることを我々は改めて認識する必要がある。
 
 シティは近年、タイトルを次々と獲得している。しかしただ単に勝つだけなら、それこそ毎年多くの優勝チームが誕生する。グアルディオラが率いるシティが偉大なのは、安定した結果を手にしながら、イングランドのフットボール文化に変革のムーブメントを巻き起こすという相反する2つの要素の両立を実現させていることだ。そしてその機運は自ずとフットボール界全体にも広がっている。

 グアルディオラという人物の中には夢想家、狂信者、芸術家という3つの異なる顔が同居している。夢想家は情熱的で、狂信者は頑固だ。その2つの要素が混在し、グアルディオラという独自の世界観を持った芸術家を作り上げている。そして彼はスペイン、ドイツ、イングランドと監督業に従事する国に応じて自らのフットボール観をアジャストさせながら、異なる素材を駆使して我々に様々な素晴らしい「作品」を提供しているのだ。

 この名将によって創造された作品は、それぞれテイストは異なるが、しかし根っこの部分で確固とした共通のコンセプトが存在する。我々は試合開始から3分も経過すれば、そのチームがメイド・イン・グアルディオラであることを認識する。選手たちがたとえ宇宙飛行士のコスチュームに変装していてもその独自性は一目瞭然で判別できてしまうのだ。

 ペップ率いるチームはそれほど特徴的だ。インテリジェンスとチーム・ファーストの精神に溢れ、守備を疎かにすることなく(昨シーズンのプレミアリーグの総失点は23)、そしてとにかく攻撃でリスクを負う(同総得点は95)。このスペイン人指揮官がバルセロナで監督としてデビューしてから今日に至るまで、残してきた成績は圧倒的だ。しかし彼の場合は、そうした一連の数字を並べるだけではむしろ陳腐な印象さえ与えかねない。
 

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