豊田陽平の高さは平均的? チーム強化の鍵を握る独自の「スカウティング」【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2019年08月04日 小宮良之

名SDが統括するセビージャのスカウト法とは?

日本では長身FWとして知られる豊田(右)。だが、スペイン人スカウトが評価したのは……。(C)Getty Images

 チーム強化において根幹になる一つが、「スカウティング」だろう。

 選手の能力、キャラクターを見極められるか。戦いのデザインに合わせ、選手の長所、短所を理解。選手を配置するまでの"目利き"が、物を言う。

 もっとも、スカウティングは実に主観的なものである。目利きの目はフィルターを意味している。一般的な良し悪しは、素人でも判別できる。選手の持っている(将来的な)ポテンシャルやパーソナリティーも含めて戦力になるかどうかを、フィルターを通して見抜けなければならない。

 数年前、スペインのセビージャがヨーロッパリーグで3連覇を達成し、その選手マネジメントが話題になった。優秀な選手と次々に契約し、チームの中で生かし、さらに高い値段でビッグクラブと取引。当時は、スポーツディレクターを務めていたモンチの"目利き"が賞賛されていた。

 20人近いスタッフが、各国リーグの選手のプレーを確認。技術、体力、戦術理解力、そして値段などを元にした5段階評価で、毎週会議を行い、そこで継続的に高評価だった選手に関しては、モンチ自身が獲得するかどうかの判断を下した。「無事是名馬」で、ケガなくプレーできているか、も大きな焦点。また、素行面の問題や騒ぎを起こした選手も除外されたという。

 労力を懸けて選手を絞り込み、獲得に踏み切る。「セビージャが触手を伸ばした選手は良質の銘柄」。そんな話が広がったほど、セビージャのスカウティングは一目を置かれたものだ。

 今や映像データは膨大。スプリント数や走行距離、プレーゾーンなどの情報を詳細に手にできるようになった。欲しい選手を簡単に絞り込める。

「でも、結局は人間の目で見て判断する部分が大きい」

 モンチもそう洩らしているように、スカウティングはまだAI(人工知能)でカバーするには、多くの余白があるようだ。
 
 例えば、あるスペイン人スカウトが、サガン鳥栖の元日本代表FW豊田陽平をスカウティングしたときだった。

「高さは平均的だろう」

 そのスペイン人はバスク出身で、バスク人選手は頑健で大柄な身体を持っている。バスク人だけでチームを編成するアスレティック・ビルバオは、平均身長が185センチ近い。クロスに対し、大きな身体で突っ込むプレーを伝統としている。

 バスク人のフィルターで見た場合、身長187センチの豊田の身体や高さは、何も特筆すべきことはない。一方で、バスク人スカウトはこうも続けた。

「密着されればされるほど、パスコ-スを空けてボールを呼び込める。敵の空隙を見つけるマリーシアを持っている。敵の視界から消え、コースを見つけるセンスは最高の部類」

 スカウティングは、主観的である。生身の判断だけにミスも出る。例えば、歴代の外国人日本代表監督は、不可解なメンバー選出をすることがあった。「それができて、あれができないと思わなかった」という先入観があったのだ。

 ただ、異なるフィルターを通すことで、選手のポテンシャルが引き出されることもある。

 スカウティングは、チームの命運だけでなく、選手の人生も左右する。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。
 
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