【鹿島】安心感だけでなく緊張感も。クォン・スンテが醸し出す常勝軍団に相応しい空気感

2019年07月26日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

チームを鼓舞するため、味方を叱咤することも

来日3年目のクォン・スンテ。日本語に関しては「聞き取りぐらいなら(笑)」という上達具合だが、ピッチ内の指示に関しては「まったく問題ありません」。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

 感情をむき出しに、怪我をしてでもゴールを守る――かつてはそんなGKだった。
 
「怪我を恐れず、なりふり構わずに、とにかく飛び込んで相手を止めることしか考えていない時期がありました」
 
 そんな鹿島の守護神クォン・スンテに、かつて所属していた全北現代のチェ・ガンヒ監督は「怪我をするなら、1失点したほうがいい」と諭したことがある。「シーズンは長い。怪我をして3か月や半年休むぐらいなら、1失点してもいいから次の試合に出てほしい」とも。
 
 当の本人は「そう言われたからといって、失点はあり得ない、怪我をしたほうがマシ」と考えていたという。ただ、指揮官の想いを理解していなかったわけではない。常に自分がピッチに立てるように。そうした自覚と責任感をさらに強くして、プレーを続けた。
 
 基本的には、闘争心が旺盛なタイプだ。まだ経験の浅い新人時代には「ピッチ上でいくつかの揉め事や衝突があった」。しかし、幾多の経験を積むことによって、感情をコントロールできるようになったし、「落ち着いて試合を運べるようになった」。
 
 もっとも、消極的になったわけではない。
 
「怪我を恐れてプレーしたことは一度もありません。失点する痛みのほうが強いので」
 
 ゴール前の混戦でも、まったく怯まず、敵FWの足をかいくぐってでも、目を見開いたままキャッチしようと飛び込む。見ているこっちがヒヤヒヤしてくるが、ある意味、それがゴールを守ると同時に、怪我を回避することにもつながっているようだ。
 
「まずボールを見ていなければ、相手の足が出てくるのか、身体が飛び出してくるのか、判断できませんから。どんなに怖い場面でも、ボールを最後まで見て、弾くのか、キャッチするのかを見定める。そうしないと、自分で自分を守れません」
 
 迫力あるキャッチングやセービングで鹿島のゴールを死守し、またチームを鼓舞するため、味方を叱咤することもある。
 
「選手である以上、ミスはつきものです。ミスをした瞬間は本人がそれを一番分かっているし、落ち込んでもいるでしょう。そこで怒れば、気分が滅入ってしまうかもしれない。だから1回目のミスの後は『大丈夫だ』と声もかけます。でもミスを繰り返すようでは、厳しく言わなければならない。それがベテランに求められている役割のひとつでもあると認識しています」
 
 少しでも気を抜いたプレーをすれば、最後尾で構える守護神が黙っていない。そうやってことあるごとに、チームを引き締めてくれるクォン・スンテの存在は、安心感だけでなく、ピリピリとした緊張感をもたらしてくれる。それは、常にタイトルを義務付けられている常勝軍団に相応しい空気感と言えるだろう。
 
取材・文●広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)
 
※本記事は、サッカーダイジェスト8月8日号(7月25日発売)掲載の記事から一部抜粋・加筆修正したもの。

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