北京での金メダルから11年――。はしゃいでいたメッシとアグエロはもはや…【南米サッカー秘蔵写真コラム】

2019年07月19日 ハビエル・ガルシア・マルティーノ

思い出深い中国での出来事

金メダルを手にはしゃぐメッシ(左)とアグエロ(右)。この時、アルゼンチンが世界王者となる日が来るのを予感したファンは少なくなかったはずだ。 (C) Javier Garcia MARTINO

 2008年8月、私は北京五輪の男子サッカーを撮影するため中国を訪れていた。

 五輪を取材するのも、中国に行くのも初めてで、未知の世界に飛び込む気持ちで覚悟して出発したのだが、幸い全てが計画どおり順調に進み、おまけにアルゼンチン代表が優勝して金メダルを獲得するという幸運にも恵まれた。

 ご存知のとおり、五輪におけるサッカーは複数の会場で行なわれるため、私は中国国内を何箇所も移動した。

 そのなかで最も多く利用した交通手段は鉄道だったのだが、五輪期間中だというのにどの駅にも外国人向けの表示はほとんどなく、スペイン語と片言の英語しか話せない私がよく中国で都市間を移動できたものだと、今でも友人たちから驚かれる。

 ただ、例え言葉がわからなくても、自分がどこの出身かを伝えるだけでサッカーの話題で盛り上がることができるのは面白い。選手やクラブの名前をあげるだけで、行く先々で出会う人たちと和やかにコミュニケーションを取ることができるのだから、「サッカーとは世界の共通語」とはよく言ったものだ。

 中国でもそんな体験をした。ある日、瀋陽から天津まで寝台特急に乗ったときのことだ。向かいの座席に座っていた中国人のビジネスマンに「どこから来たのか」と聞かれ、私が片言の英語で「ウルグアイ人だがアルゼンチンに住んでいる」と言うと、彼は目を大きく見開き、即座に「アルゼンチン! メッシ!」と答えた。

 それまでどの国に行ってもアルゼンチンと言えば、「マラドーナ」と返ってくるのがお決まりだったから、「メッシ」と言われたのは意外だった。しかも、彼は続けて、「Argentina with Messi, World Champion! (メッシを擁したアルゼンチンは世界チャンピオンだ)」と真顔で言うではないか。

 そこで、北京五輪に出場しているアルゼンチン代表にはリオネル・メッシ以外にもセルヒオ・アグエロという素晴らしい若手がいることを伝えた私は、当時のアルゼンチンが前年にカナダでのU-20ワールドカップで優勝していたこともあって、調子に乗り、「メッシとアグエロはいつか必ずアルゼンチン代表でタイトルを獲得するはずだ」と断言してしまった――。

 あれから11年の月日が流れた。だが、アルゼンチン代表はひとつのタイトルも手にしていない。彼らが2014年のブラジル・ワールドカップに出場し、決勝まで進出したのに優勝できなかったことを、あの時の中国人は思い返しているだろうか。

 北京五輪でチームの中心に君臨し、代表の未来を担うと期待されたメッシとアグエロは、もはやベテランとなり、先のコパ・アメリカでは本領を発揮するに至らなかった。すでにアルゼンチン代表は世代交代の時期にあり、二人に依存するようではいけない段階に入っている。メッシはともかく、アグエロが今後も継続的に代表に招集される保証はない。

 それでも、あのとき中国で間近で捉えた彼らの戴冠シーンをもう一度撮りたいという強い気持ちが私にはある。もしかしたら、来年にアルゼンチンで開催されるコパ・アメリカ(コロンビアとの共催)が最後のチャンスになるかもしれない。そう思って、金メダルを手に子どものようにはしゃぐメッシとアグエロの写真を見つめると、少しばかり切ない気持ちになってしまうのであった。

文●ハビエル・ガルシア・マルティーノ text by Javier Garcia MARTINO
訳●チヅル・デ・ガルシア translation by Chizuru de GARCIA
みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事