【ナビスコカップ】MVPを掴み損ねた…佐藤寿人が今季無冠からの巻き返しを誓う

2014年11月09日 元川悦子

いい意味での割り切りが10月に入ってからの好循環につながる。

ナビスコカップでの歴代最多得点を更新した佐藤だが、ファイナルでは主役の座を掴み損ねてしまった。(C) SOCCER DIGEST

 岩下敬輔のハンドで得たPKを確実に沈め、石原直樹の強烈なシュートのこぼれ球を確実に左足で押し込んだ時点で、佐藤寿人は広島の今季初タイトルを力強く引き寄せたはずだった。
 
 ところが、その3分後に状況は一変。国内屈指の戦術眼を持つ男・遠藤保仁のひと蹴りから伏兵・パトリックの一撃を浴び、試合の流れがガラリと変わってしまった。
 
 後半に入るとG大阪の猛攻によって、広島は守備一辺倒になる。佐藤も前線で孤立する時間帯が目立ち、ほとんどボールを触らせてもらえなかった。逆転を許し、残り12分というタイミングで森崎浩司と代わってベンチに下がった時、その胸中は、2点を奪いながら勝利に導けなかったもどかしさでいっぱいだったに違いない。
 
「自分が2点を取って勝てなかった試合? 確かにあんまりないですね。後ろの選手たちは『すみません』って言ってたけど、これは全員で負けたわけだから。立ち上がりから全員で身体を張ってボールを奪って2-0とリードしたけど、その後のガンバの圧力は凄まじかった。
 2点を取ったパトリックの高さとパワーにはホントに手こずりました。彼にやられてるイメージもなかったし、こっちはどうしても貴史(宇佐美)とか2列目の選手に集中が行ってしまった。ホントに悔しいですけど、敗れた時に何を学ぶかが一番大事だと思います」
 MVPをパトリックにさらわれた佐藤は勝利の原動力になれなかった悔しさを身体いっぱいに表現していた。
 
 プロ15年目の節目を迎えた今季は、彼にとって決して満足のいくシーズンではなかった。開幕からJ1とACLを並行して戦いながら、コンスタントにゴールを挙げていたが、夏場に入って森保一監督の起用法に違和感を覚え、試合出場から遠ざかる期間が1か月ほどあった。
 
 その間に若い皆川佑介が台頭し、日本代表に抜擢されるに至った。佐藤にしてみれば、なんとしても結果を出して存在価値を再認識させなければならないと強く思ったことだろう。
 
「今年は90分出る機会が限られていて、そのストレスを自分の中で消化し切れなくて、夏場ゲームに関われなかった。今は割り切って90分間フルで出るというのをいい意味で捨てている部分があるんで、だからこそスタートからチームのために身体を張れる。一番はゴールだけど、ゴール以外の部分でもチームにプラスをもたらさないといけない。それが自分の仕事だと思ってます」といい意味で割り切った結果、10月に入ってからはゴールを量産。Jリーグ10年連続二桁得点、そして今回の2得点につながった。
 
 個人としていい仕事をしたのは間違いないが、チームを勝たせられず、無冠でシーズンを終えることになったのも確か。これをいかに今後に生かしていけるかが肝要だと佐藤は繰り返し強調していた。
 
「今季は昨季からの上積みが足りなかったし、ACLと並行して戦う難しさもあった。ここからいかにカラを破っていけるか。ビッグクラブじゃない自分たちにとっては高い壁だけど、この土台を発展させて次のタイトルを取っていけるかだと思います」と彼はもう一段階の飛躍を誓った。
 
 その言葉どおり、広島というチームのスケールアップと佐藤自身のさらなる変貌をぜひ見せてほしいものだ。

取材・文:元川悦子
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