「貧しくても下部組織がある」リーガ1部昇格を果たしたオサスナの矜持【小宮良之の日本サッカー兵法書】

2019年07月07日 小宮良之

「クラブは文無し。苦しみ続ける」

昨季に2部優勝を果たしたオサスナ。3シーズンぶりの1部でどんな戦いを見せるか。(C)Getty Images

「オサスナは消滅する危険もあるよ。会長や幹部が逮捕された。八百長疑惑と横領疑惑でね」

 3年前の6月だった。スペインの古都パンプローナを訪れたとき、タクシー運転手は地元クラブについてそうぼやいていた。

「オサスナは歴史のある名門クラブさ。でも、すっかりダメだ。上位を争ったこともあったのに、2013年には2部へ真っ逆さまに落ちた。そして昇格するどころか、18位に沈んだ。あと一つ下の順位だったら、2部B(実質3部)に降格していたよ。どうにか生き残って、今シーズンは6位になってプレーオフに出場したけど、どうせ負けるさ」

 筆者は当時(2015-16シーズン)、オサスナ対ジムナスティック・タラゴナという1部昇格プレーオフを取材で町に滞在していた。ジムナスティックには、鈴木大輔(現浦和レッズ)が所属し、そのルポ取材だった。あるいは、日本人だと気付いた運転手のリップサービスだったのだろうか。

「資金繰りに困り、多くの選手も売りに出した。クラブは文無し。これからは苦しみ続けるよ」

 運転手はそう言って肩を竦めた。

 しかし、6位でプレーオフに出場したオサスナは、そのユニホームの赤が燃え上がるような戦いを見せた。3位のジムナスティックを撃破した後、決勝も制し、1部に昇格。サッカーは、何が起こるか分からない。

「自分たちは這い上がるしかなかった。失うものなんて何もなかったんだよ」

 当時、オサスナのMFだったミケル・メリーノ(現レアル・ソシエダ)はそう語っていた。
 
 主力であるメリーノを金銭的な理由で失うことになったオサスナは、たった1年で2部へ降格することになった。その点、タクシー運転手の言葉通りだったと言えるかもしれない。2シーズンは、2部の地獄で喘いだ。

 しかし今シーズンはバスク人監督、ハゴバ・アラサテに率いられ、2部で見事に優勝。再び1部に昇格することになった。

 オサスナは今も経済的に苦しい立場だが、落ちぶれてはいない。

 彼らを救ったのは、タホナルと呼ばれる下部組織である。今シーズンもメンバーの半数近くはタホナル出身者。この比率は、ヨーロッパのトップリーグでは群を抜くものだ。

「自分たちにはタホナルがある」

 それがオサスナの人々の矜持と言える。
 

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