呪縛を解いたバイエルン イタリア勢はもはや敵ではない 【バイエルン番記者】

2014年11月05日 パトリック・シュトラッサー

ベナティアの移籍が象徴的だ。

セリエAで2位のローマを敵地で7-1と粉砕。もはやイタリア勢はバイエルンの敵ではないと、シュトラッサー記者。 (C) Getty Images

 ミュンヘンの人々は、「ミュンヘンは欧州最北にあるイタリアの街だ」と言うのを好む。いやそれどころか、それを自慢にさえしている。実際、バイエルンの州都ミュンヘンの雰囲気は、どこかイタリアっぽい、ノンシャランな(のほほんとした)感じがする。「グランデッツァ(荘厳さ)」や「ドルチェ・ヴィータ(甘い生活)」という言葉が表わすような、気ままに人生を楽しむといった気風があるのだ。
 
 もっとも、サッカーにおいては「ベッラ・イタリア(美しきイタリア)」のメンタリティーはなかった。バイエルンにとって、ユベントスやミランのイタリア勢は、憎むべき宿敵でしかなかった。チャンピオンズ・リーグ(CL)では、彼らに辛酸をなめさせられることが多かった。近年を振り返れば、ユーベには2004-05シーズンのグループステージで2連敗を喫し、ミランには06-07シーズンの準々決勝で敗れている。
 
 それよりも苦々しい記憶が、インテルに喫した敗北だ。90年代にローター・マテウス、アンドレアス・ブレーメ、ユルゲン・クリンスマンという当時のドイツ代表の主力が活躍したあのネラッズーロ(インテルの愛称)に、バイエルンは09-10シーズンの決勝で敗れた。ルイス・ファン・ハール監督(現マンチェスター・ユナイテッド)が指揮したチームは、ジョゼ・モウリーニョ率いるインテルに0-2でやられた。さらに痛恨の敗北が翌10-11シーズンのそれだ。決勝トーナメント1回戦、第1レグを1-0でモノにしながら、第2レグを2-3で落とし、逆転負け……。
 
 しかし、イタリアの呪いはもはや解けたようだ。ユップ・ハインケス監督の下でCLを制した輝かしき12-13シーズンは、準々決勝でイタリア王者ユベントスを葬り去った。バイエルンは非常に説得力のあるプレーを披露し、2試合とも2-0の完勝を収めてみせた。今シーズンも、2週間前に誇り高きローマを7-1と粉砕した。
 
 セリエAのクラブは、もはやかつてのレベルにはない。スポーツ的に見ても、財政的に見てもだ。彼らはバイエルンにとって、もはやライバルではない。セリエAでは2位につけるローマも、バイエルンの敵ではなかった。このローマのことを、「マスコットが実際のピッチに立つ唯一のクラブだ」とからかう声もある。マスコットとは、フランチェスコ・トッティのことだ。
 
 一昔前までは、スター選手はセリエAを移籍先に選んだものだが、今はバイエルンにやって来る。セリエAで最も優れたディフェンダーだったメハディ・ベナティアが、ローマを退団してバイエルンを新天地に選んだ今夏の移籍が象徴的だ。
 
 CLでのバイエルンのライバルは、いまやスペインかイングランドのクラブだ。すなわち、ビッグイヤーを争奪する相手は、レアル・マドリー、バルセロナ、チェルシー、マンチェスター・シティである。
 
【記者】
Patrick STRASSER|Abendzeitung
パトリック・シュトラッサー/アーベントツァイトゥング
1975年ミュンヘン生まれ。10歳の時からバイエルンのホームゲームに通っていた筋金入りで、1998年にアーベントツァイトゥングの記者になり、2003年からバイエルンの番記者を務める。2010年に上梓した『ヘーネス、ここにあり!』、2012年の『まるで違う人間のように』(シャルケの元マネジャー、ルディ・アッサウアーの自伝)がともにベストセラーに。
【翻訳】
円賀貴子
みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事