徳島ヴォルティスを団結させた選手間ミーティング。6月の3連勝は偶然ではない

2019年06月28日 柏原敏

13節・柏戦の不甲斐ない戦いがチームの転機に

徳島は17節から3連勝と調子を上げている。写真:徳原隆元

 勝点を積み上げているだけではなく、その内容が美談である。序盤戦は出場機会を得られずに我慢してきた河田篤秀が17節・FC町田ゼルビア戦(1-0)でホーム初先発に加えて今季初得点。18節・横浜FC戦(2-1)では、野村直輝が5年在籍した古巣相手に今季初得点を挙げ、プロ2年目の渡井理己がJ初得点。19節・アビスパ福岡戦(2-1)では岸本武流がJ2でのキャリアハイとなる4点目を記録し、杉本竜士が約2年ぶりの得点で3連勝に導いた。
 
 試合毎に新しいヒーローが誕生する現状。リカルド・ロドリゲス監督はこう捉えている。
「大切なのは出場している選手たちではなく、出場していない選手たち。彼らがチームに貢献するため、練習の時からしっかりと取り組んでくれている。そして、彼らもいつ出場しても遜色なくプレーできる。そんな彼らがしっかりと取り組んでくれていることが、最近の試合につながっているのだと思う」
 
 まるで提灯記事だが、これが徳島で起きている現実である。また、結果や内容が急激に良くなることは決してないものだが、結束力が著しく強まったきっかけがある。
 
 それは、5月の13節・柏戦(0-1)。敗戦という結果よりも、1週間かけて準備してきた内容を表現できたのか疑問が残る試合となった。特に、前半の45分間。その間に喫した失点により、0ポイントで帰路に着くことになる。試合後、キャプテン・岩尾憲は普段同様に記者陣の問いに答えてくれたが、その日の自分たちに苛立ちを隠せない様子は手に取るように感じ取れた。取材に同席した柏側の記者が、「すごく怖いですね(苦笑)」とこぼしたのが印象的だった。

 ただ、その状態を放置しておく岩尾ではない。翌節の14節・山形戦(1-1)に向けた準備を進める中で、直ぐさま選手間ミーティングを開いた。予想以上に時間を費やしていたのを覚えている。その週末、見違えるような戦いぶりで首位・山形に対して試合を優位に進めた。ただ、退場により数的不利に陥り、勝ち切るまでは至らなかった。また、15節・長崎戦(0-1)は終始圧倒して「シーズンで一番いい試合ができた」(R・ロドリゲス監督)。ただ、結果は敗戦だった。とはいえ、どちらも結果は出せなかったが、あの選手間ミーティングを機にチームには変化しようとする意志が生まれた。それが5月だった。
 
 その5月を経て、この6月の結果。「いま自分たちができること、やらなくてはいけないこと。ここ数試合、地に足つけて愚直にできている」(岩尾)。勝敗という結果云々以前に、組織として目の前の一戦一戦に向き合えている。
 
 決して選手間ミーティング自体に大きな力があるわけではない。そこに魔法の力があるなら、全チームが毎日のように行えばいい。ただ、徳島にとっては、何かのきっかけで変化できる素地はあったのだろう。その素地を作り上げてきたのは、開幕からの積み上げであり、プレシーズンであり、過去の歴史である。
 
 大粒のスーパーヒーローが集まるクラブではない。ただ、その一粒一粒が輝こうと意志を持った集団は、観ていて清々しい。
 
取材・文●柏原敏(フリーライター)
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