「スタイルは変えずに、戦い方を変える」岐阜の再建を託された北野新監督が目指す"浪漫と現実"の融合

2019年06月28日 小崎仁久

今シーズンは悪くないスタートを切っていたが…

最下位に沈む岐阜。現在7連敗を泥沼にはまっている。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

「大木さんが2年半築いてきたサッカーに、自分のエッセンスを加えていきたい」
 
 6月18日、退任した大木武氏の後を受けて、北野誠新監督はそう話した。スタイルとして両極端と見られている指導者の交代、本人も「えっ、まさかと意外だった」と話す就任はチームに何をもたらすだろうか。
 
 今シーズンのFC岐阜は、素晴らしいとは言えないまでも、悪くはないスタートを切った。ボール保持、ショートパスに固執し過ぎず、中央を起点とする攻撃は、これまでには見られなかったスタイルで、チームは3年目の変化を見せ始めたところだった。
 
 しかし、それは続かなかった。ベースであるパスで相手の守備を崩すことができず、無得点試合、つまり勝ちのない試合が続くと自信も失った。不用意な失点が増え、守備陣を固定できず、怪我人の多さがそれに拍車を掛けた。5月には最下位まで転げ落ち、14節、ジェフユナイテッド千葉を相手に1-5の大敗を喫すると、チームは行く先を見失った。
 
 北野監督は、昨シーズンまでカマタマーレ讃岐を9年率い、クラブを四国サッカーリーグからJFL、J2へと引き上げた手練れである。さらに環境、戦力に恵まれないながら策を練り、「残留力、修羅場力」を発揮して、チームを5シーズンJ2に留めおいた(昨季はJ3降格となったが)。
 
 これまでは対戦相手として、尊敬する指導者のチームとして岐阜の試合をよく見ており、今季の戦い方やなぜ勝点が積み上がらないのか、理解していると言う。就任会見では「前線を追い越す動き、相手の背後を狙う動きが足りていないのが、得点が入らない理由」と早くも状況分析を話し、練習では意識の足らなかったゾーンディフェンスを徹底させている。まずは自信をつけさせたいとメンタリティの重要性も話した。

「スタイルは変えずに、戦い方を変える」と選手には言い、ボールは大切にしながら、パスの距離を変え、ポジションの幅を変えたいと話す。加えてもっと走る距離を伸ばし、一本調子ではない攻撃、変化させる攻撃も志向したいと言う。
 
 新監督はすでに様々な方策を持ち得ている。それを戦略戦術に落とし込むことにも長けている。しかし次々に週末はやってくる。「山口をぶったたくことしか考えていない」と臨んだ初陣、19節も意気込みむなしく0-4と落としたが、それほど簡単に結果が出ないことは承知している。
 
 残留がひとつのミッションであることを北野監督は明言している。しかしまだシーズンの折り返しにも達していない現在では「下を向くには早すぎる」。ここからどこまで這い上がれるのか。そして、ハイポゼッション、ショートパスの攻撃偏重スタイルを、浪漫主義的に追求してきたサッカーに、状況、戦力を把握し戦術を生み出していく超現実主義的な手法を、どう混ぜていくのか。大いに見物である。
 
取材・文●小崎仁久(フリーライター)
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