なでしこジャパンのボランチ史を変えた。杉田妃和の躍動の“根源”は高校時代にあり

2019年06月27日 西森彰

クラブチーム出身者が担ってきたボランチに初めて高体連出身の選手が

今大会の全4試合でフル出場。杉田はボランチで攻守に働き、存在感を示した。(C)Getty Images

 静岡の名将・多々良和之監督率いる藤枝順心高校。冬の一大イベント・高校女子サッカー選手権では、最近4年間の2回を含む3回の優勝を誇る。今年度のチームも6月23日の日曜日、東海大会で優勝し、夏のインターハイ本大会出場を決定させた。
 
 そんな藤枝順心が送り出した大器が、フランスの地で躍動した。今大会、ボランチとして全試合フルタイム出場した杉田妃和だ。杉田の在籍した2012年度から2014年度は、常盤木学園(宮城)、日ノ本学園(兵庫)と死闘を繰り広げ、「高校女子サッカー3強」と呼ばれた。タイトルを重ねていった常盤木、日ノ本に比べて実績面で劣る藤枝順心が、3強のひとつとして認められたのは、ひとえにそのスタイルにあった。
 
 攻守の切り替えを早くしたポゼッションサッカー。ウイングをセンターフォワードの前に置くような4-3-3システムを動かしたのが、杉田だった。高校サッカーは一発勝負のトーナメントが多い。その中では、対戦相手に合わせて柔軟な策を講じるほうが、勝率は高まる。
 
 しかし、杉田が在籍していた当時、多々良監督は相手に合わせるのではなく、主導権を握ることを前提に戦った。「ウチのサッカーが一番」という自信の表われだろう。実際、ピッチを広く使ってゲームをデザインする杉田と藤枝順心のサッカーは、結果には結びつかなかったが、十分に魅力的だった。杉田は、大人になった時に必要なプレーを、手痛い敗戦を喫しながら、身につけていった。
 
 年代別代表でも着実にキャリアを積んでいく。2014 FIFA U-17女子ワールドカップ(コスタリカ)では、後になでしこジャパンを率いる高倉麻子監督の下で主将として活躍。優勝トロフィーとゴールデンボール(大会最優秀選手)を、手にした。さらに2016 FIFA U-20女子ワールドカップ(パプアニューギニア)でチームは3位に終わったが、杉田はこの大会で再びMVPに選出されている。
 
 そして昨夏のオーストラリア戦、なでしこジャパンでデビュー。選出されてしばらくは、控えめなプレーに終始していたが、これは「まずチームに定着することを考えた」からだった。だが、フル代表で遠慮していれば、自分の席は掴めない。
 
 それを悟ったのか、それともチームのやり方を把握したのか、年明けからギアを上げる。アメリカ遠征の第2戦で堂々としたゲームメイクをすると、代表定着という当初の目標を飛び越えて、がっちりとレギュラーポジションを確保した。これまでクラブチーム出身者に委ねられてきた、なでしこジャパンのボランチに、高体連出身者が就任したのである。

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