【元マドリー指揮官のコラム】純粋に楽しませてくれたアヤックス。トッテナムはCLのベスト11に選出したい選手はひとりもいないが…

2019年05月13日 エル・パイス紙

ポチェティーノに最大級の賛辞を

アヤックスとの激闘を制したトッテナム。クラブ史上初のファイナルに駒を進めた。(C)Getty Images

 現地時間5月8日に行なわれたチャンピオンズ・リーグ(CL)準決勝・第2レグのアヤックス対トッテナム戦は、近年稀に見るドラマチックな幕切れとなった。

 アヤックスは若いチーム特有のフレッシュさ、積極性、エネルギーを前面に出し、前半のうちに2点を奪った。1-0で勝利を収めた第1レグの結果を合わせると、3点のリードを手にし、決勝進出に大きく前進したかと思われた。

 しかし後半、今度は不安定さ、未熟さ、責任感の欠如といった、これも経験の浅いチームにありがちな弱点を露呈。一気に3点を奪われ、2戦合計3-3のタイスコアとされ、アウェーゴール数の差でファイナル進出を逃した。

 一方のトッテナムは、アヤックスに比べるとより成熟したチームであることを実証した。

 試合を通してプラグマティック(=実用的)に振る舞い、また運(試合後の分析の際に議題に上がるケースが思いのほか少ないとはいえ、運もまたサッカーにおいて勝敗を左右する重要な要素の一つだ)にも恵まれた。
 
 後半頭から投入された長身FWのフェルナンド・ジョレンテ目掛けてロングボールを放り込むという極めてシンプルな攻撃であったが、徐々に劣勢の前半から挽回。ルーカスが55分と59分に立て続けに利き足とは逆の左足でネットを揺らした。

 これで"追う側"にとって有利な打ち合いの展開に持ち込み、以降は怒涛の波状攻撃を展開。後半アディショナルタイム5分にルーカスがこれまた左足でハットトリック完遂となる逆転弾を決めて、これ以上ない劇的な形でクラブ史上初のCL決勝進出を果たした。

 トッテナムは快進撃を続けている。だが、今シーズンのCLのベスト11を選出する資格がもし私にあるなら、正直、積極的に選びたいと思う選手はひとりもいない。裏を返せば、それだけマウリシオ・ポチェティーノ監督の采配が優れているわけで、その功績は最大級の賛辞に値する。

 逆にアヤックスはまさにあとワンプレーのところで涙を呑んだとはいえ、我々にサッカーを心から純粋に楽しんでいた頃の気持ち、いわば"童心"に返らせてくれた。そう、サッカーが商業主義というネオンに照らされる以前の時代にだ。

文●ホルヘ・バルダーノ
翻訳:下村正幸

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【著者プロフィール】
ホルヘ・バルダーノ/1955年10月4日、アルゼンチンのロス・パレハス生まれ。現役時代はストライカーとして活躍し、73年にニューウェルズでプロデビューを飾ると、75年にアラベスへ移籍。79~84年までプレーしたサラゴサでの活躍が認められ、84年にはレアル・マドリーへ入団。87年に現役を引退するまでプレーし、ラ・リーガ制覇とUEFAカップ優勝を2度ずつ成し遂げた。75年にデビューを飾ったアルゼンチン代表では、2度のW杯(82年と86年)に出場し、86年のメキシコ大会では優勝に貢献。現役引退後は、テネリフェ、マドリー、バレンシアの監督を歴任。その後はマドリーのSDや副会長を務めた。現在は、『エル・パイス』紙でコラムを執筆しているほか、解説者としても人気を博している。

※『サッカーダイジェストWEB』では日本独占契約に基づいて『エル・パイス』紙に掲載されたバルダーノ氏のコラムを翻訳配信しています。
 
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