アンフィールドの希望の星――日進月歩のスターリング 【リバプール番記者】

2014年10月15日 ジェームズ・ピアース

ロジャースが据えたお灸は効果てきめんだった。

ロジャース(左)の指導の下、まさに日進月歩のスターリング(右)。リバプールの次代を担う存在だ。 (C) Getty Images

 ラヒーム・スターリングの急成長ぶりには、驚きを隠せない。
 
「私生活を正さなければ、起用しない」
 ブレンダン・ロジャース監督に、公然と注意されたのは1年前。そしてベンチ生活が続き、自信を失いかけた。
 ゴールの数より裁判所に出廷する回数のほうが多かったやんちゃ坊主。恵まれた才能をこのまま浪費してしまうのではないかと、関係者は行く末を案じたものだ。
 
 ロジャースが据えたお灸は、効果てきめんだった。スターリングは、いまやリバプールのみならず、イングランドでもっとも将来有望なタレントだ。全世界を見渡しても、五本の指には入る有望株だろう。
 
 心を入れ替えたスターリングに、ロジャース監督が再度チャンスを与えたのは昨年12月。以来、まさに日進月歩だ。昨シーズン後半のリバプールの快進撃に大きく貢献すると、ブラジル・ワールドカップに出場して好パフォーマンスを披露した。精彩を欠いたイングランド代表の唯一の光明だったと言っていい。
 
 無限の可能性を秘めた逸材の身辺が騒がしくなるのは、いわば必然だ。この活躍を受け、レアル・マドリーやパリ・サンジェルマンが獲得に乗り出したと伝えられている。もちろん、リバプールに手放す意思はない。2017年に満了する契約の更新交渉を始める予定で、5年契約を用意している。
 
「ファーストチームで90試合に出場した時点で新契約の交渉を開始する」
 2012年12月に結んだ現行契約にはこんな条項があるが、そうでなくてもリバプールは心得ている。次代を担うスターには、それに見合う好待遇が必要であると。スターリングのいまのサラリーは、週給4万ポンド(約680万円)にプラス出場給などのボーナス。新契約は少なくともそれが倍増するはずだ。
 
 素顔のスターリングは、物静かでシャイな若者だ。警察沙汰を何度も起こしてはきたが、傲慢な悪童では決してない。母ナディーンに連れられて、ラヒーム少年がジャマイカからロンドンへ移住したのは5歳の時。以来、母の愛情を目いっぱいに浴びて育ってきた。だからだろう。子供の頃からフットボールの才能を発揮し、ちやほやされてきたとは思えないほど地に足が着いている。インタビューにはきちんと対応し、控えめながら、はっきりとした受け答えで好印象を残す。
 
 2年前、リバプールで頭角を現わしはじめた当初は、スピードに頼るばかりの一面的な選手でしかなかった。それが、フィニッシュの精度を高め、スキルにさらなる磨きをかけ、トップ下もこなすマルチなアタッカーへと進化を遂げた。いわゆるフットボールIQが高く、卓越したテクニックと創造性はイングランド人らしくない。
 
 170センチと小柄ながら、フィジカルの強さも身に付けた。ロジャース監督は「マン・オブ・スティール(鋼の男)」と呼ぶほどで、ジェラードは「当たり負けする」からと冗談めかしながら、練習でのマッチアップを避けているようだ。
 
 リバプールはこの夏、大エースのルイス・スアレスを放出した。だが、悲観する必要はない。アンフィールド(リバプールの本拠)にはスターリングがいる。
 
【記者】
James PEARCE|Liverpool Echo
ジェームズ・ピアース/リバプール・エコー
地元紙『リバプール・エコー』の看板記者。2000年代半ばからリバプールを担当し、クラブの裏の裏まで知り尽くす。辛辣ながらフェアな論評で、歴代の監督と信頼関係を築いた。
【翻訳】
松澤浩三
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