徳島の攻撃を進化させた21歳。反骨精神に溢れる岸本武流の存在価値

2019年04月29日 柏原敏

裏を狙う岸本のFW起用で、ゴールへ向かう怖さがチームに宿った

C大阪の下部組織で育った有望株が、攻撃の核になりつつある。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 3月に「キャンプから多くの時間をビルドアップに費やしてきた」と徳島ヴォルティスの現在地を紹介した。まだまだ発展途上中ではあるが、5節・東京ヴェルディ(1-1)で岸本武流が挙げた得点のように、意図する方法でフィニッシュに成功した場面も少しずつ表れ始めている。
 
 そのビルドアップに変化を与え始めたのが岸本の存在である。セレッソ大阪の下部組織で育ち、今季から育成型期限付き移籍で徳島に加入した21歳。11節を終えた時点で3得点と結果もまずまず。
 
 さて、その岸本が与えた変化について。開幕直後はウイングバックやサイドハーフの起用が主だった。当初から「本来はFWのほうが向いている」(リカルド・ロドリゲス監督)と示唆していたが、戦術的な理由とチーム事情があって序盤はサイドでの起用が続いた。サイドでも2節・岐阜戦(1-0)では影の殊勲賞と呼べるほどの存在感も残しているのだが、4節・琉球戦(1-2)を機に変化が生まれた。
 
 ビハインドの展開で2トップに変更し、岸本をFWの一角に据えた。すると背後を取りに行く動きが格段に増え、ゴールへ向かう怖さがチームに宿った。開幕戦の途中出場でも同じくFW起用されてチームに躍動感を与えたが、公式戦で2度同じ現象が起きたとなれば。進むべき道は決まったようなものだ。それ以降は先発出場でFWのポジションを掴む。
 
 そこで岸本がビルドアップに何の変化を与えたかと言えば、答えはシンプルだ。「裏を狙う。攻撃でも守備でも走れと言われてます」(岸本)と背後を取る動きが圧倒的に増えたのである。

 主将・岩尾憲は「(それでもチームとしては)まだまだ少ない」と言うが、大きな変化であったことは事実だろう。徳島はライン間でプレーできる特長を持った選手は多いが、シンプルに背後を狙う選手が多いとは言えない。だが、岸本のFW起用によってパスコースの選択肢が増え、プレシーズンから用意してきたサイドで数的優位を作りながら崩していく戦術も効果的なものになった。たったひとつの変化だが、岸本の個性が攻撃の生命線になっていることに疑いはない。
 
 それでいて献身的に動き回るだけではなく、決定力の高さも目立つ。その辺りについて岸本は、昨季在籍していた水戸ホーリーホックでの苦い経験が原動力になっていると明かしてくれた。
 
 昨年6月頃までの水戸は、岸本をFWに据えた組織作りが続いていたが「得点を取れない時に同い年の伊藤涼太郎(現・大分トリニータ)がポンポンと得点を取って、立場が逆転したという悔しい気持ちがずっとあった」と以降は控え中心でシーズン終盤まで過ごした。「せやから徳島に来てからは、その気持ちを絶対に忘れんとこう。常にその気持ちを持ちながら、得点を取ったとしても安心せず、確立されたポジションはない。そう自分に言い聞かせている」という思いを胸に、今日もチームのために身を粉にして走り続けている。
 
取材・文●柏原敏(フリーライター)
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