【J1コラム】「落ちてはいけない」清水の王国のプライド

2014年10月06日 熊崎敬

本田が心臓として機能し、全体に勢いと落ち着きが。

サッカー王国の旗印として創設された清水。21年間一度も降格することなくJ1の座を守り続けている誇りと矜持がある。(写真は17節柏戦) (C) SOCCER DIGEST

 セレッソ大阪との残留争い直接対決を制し、清水エスパルスが16位に浮上した。およそ2か月ぶりの勝利。IAIスタジアム日本平は久々の勝利の凱歌に包まれた。
 
 今節、4バックを導入した清水は、鋭い出足と激しい当たりでC大阪ゴールを攻め立てた。8分に石毛秀樹が先制。だが、その後は猛攻を繰り広げながら決定機をことごとく外してしまう。
 ただ、この日はツキがあった。58分にC大阪が退場者を出して10人になると、77分には相手キーパーのミスから平岡康裕が待望の追加点を奪う。ロスタイムにはカウンターから村田和哉が勝利を決定づける3点目を流し込んだ。
 
 すべてのポジションでC大阪を凌駕した清水だが、なかでもアンカーを務めたキャプテン、本田拓也は素晴らしかった。大榎克己監督は、その働きを次のように評価した。
「スペースを消す動き、球際での強さが素晴らしく、身体を預けてしっかりとボールを奪い、その後も時間を創ってくれた」
 若手の多い清水の中で本田は経験豊富、唯一の日本代表経験者だ。その実力者がチームの心臓として機能したことで、全体に勢いと落ち着きが波及していった。
 
 大一番に勝ち、清水は悪い流れを食い止めた。だが、危機が去ったわけではない。試合後、高木俊幸が「清水は落としちゃいけないんです」と語っていた。
「街に出てもチームのステッカーを貼った車をたくさん見るし、多くの人に声をかけられる。静岡はサッカーの街、生活にサッカーが根付いているのを感じます。それはプレッシャーですが、刺激にもなります。この逆境をどう乗り越えるか、それが人生のプラスになると考えているんです」
 
 そう、清水は落としてはいけない。
 それは清水でプレーする選手たちが背負う十字架だ。1993年の発足当時からJリーグに加盟する「オリジナル10」の中で、清水、鹿島アントラーズ、横浜F・マリノス、名古屋グランパスの4チームだけがJ2降格を知らない。
 サッカー王国の旗印として立ち上げられたクラブは21年間、J1の地位を守り続けてきた。だが近年は優勝争いから遠ざかり、10位以下に沈むことが多い。降格の危機も今季が初めてではない。
 
 降格圏に沈み、15位で残留を決めた2005年には地元が騒然となり、練習場の駐車場に「生涯J1」、「本気を見せてくれ!」といった横断幕が張り巡らされた。
 当時、監督を務めていたのは清水の伝説、長谷川健太。現在、ガンバ大阪を率いる彼は、こんなふうに話していた。
「ぼくは子供のころから、準優勝は1回戦負けと同じという厳しさの中で育ちました。Jリーグ草創期の清水は2位が多く、シルバーコレクターと呼ばれていたけど、いつも優勝争いをしていたんです。だから清水は負け慣れてはいけない、残留すればいい、そんなチームには絶対にしたくないんです」

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