【なでしこ】連覇の裏側にある戦い 生き残りを賭け吉良知夏が挑む「オーディション」

2014年09月30日 広島由寛(サッカーダイジェストWeb編集部)

強敵とのファイナルの舞台が、W杯出場へのトライアルに。

香港戦、ベトナム戦と無得点に終わっている吉良。北朝鮮戦での爆発に期待したい。(C) SOCCER DIGEST

 北朝鮮との決勝戦を翌日に控えた前日練習が終わった後、ホワイトボードの前に増矢理花とともに座り込み、戦術面に関して中村順コーチから綿密な指導を受けていた。ほどなくして宮間あやも加わり、若いふたりはキャプテンのアドバイスに耳を傾けていた。
 
 試合中でも分からないことがあれば、自ら積極的に問いかけては、すぐにプレーに反映させるようにしている。
「普段はこういうチャンスがないので。話を聞いて、自分のものにしたいと思っています」
 
 北朝鮮戦に左MFとして先発出場が濃厚な吉良知夏は、本来はFWであり、サイドハーフについては「慣れないポジション」と認めている。正直に言えば、最前線で勝負をしたいという想いも否定はしない。
 
 だからといって、このコンバートをネガティブには受け止めていない。むしろ、「守備の部分で相手のSBにプレッシャーをかけるタイミングが遅れたりしているので、次に機会があればチャレンジしたい」と、前向きに取り組む姿勢を見せている。
 
 準々決勝の香港戦では2トップの一角で先発するも、前半の途中から左MFへのポジション変更の指示を受ける。そして66分には左サイドからのクロスで高瀬愛実のゴールをアシストするなど、好プレーを披露。「指示を受けながらですけど、勉強しながら90分間やれた。もうちょっとできたと思いますし、さらに幅を広げていきたい」と試合を振り返っている。
 この香港戦は9-0と圧勝したが、高瀬のほか、増矢、菅澤優衣香らFW陣がゴールを決めている一方、吉良は無得点だった。グループリーグの第2戦、第3戦と連続で得点を挙げており、香港戦で「3戦連発」も期待されていたが、結果を出せなかった。ライバルたちの活躍を受けて「悔しさはありました」と唇を噛む。ただ、それだけで終わらせないのが吉良という選手である。
 
「プラスに考えれば、チームのFW陣全員が点を取れるということ。これは優勝に向けて大きなことだし、自分もそのなかに食い込んでいきたいです」
 
 今回のなでしこジャパンは、代表での経験がまだ浅い若手が多く招集されており、今大会は彼女たちにとって、ある意味、来年のワールドカップに向けた「オーディション」でもある。指揮官を満足させるアピールが必要であり、FWにとってのそれはゴール以外の何物でもない。
 
 その点で言えば、吉良はもしかしたら淡白に見えるかもしれない。「自分が、自分が」という我の強さが足りないと言われれば、そうなのかもしれない。
 
 しかし、逆に考えれば非常にニュートラルだ。ひとつの考えに凝り固まったりはしない。今は、様々なものを吸収しようとすべてを受け入れて、そのすべてを成長の糧にしようとしている。
 
 若手にとってひとつの評価が下されるであろう今回のアジア大会。北朝鮮という強敵とのファイナルの舞台で、適性が試されているポジションでプレーする。これ以上ない貴重な経験となるのは間違いない。次代のなでしこジャパンを担うべき存在として期待されているアタッカーは、果たしてどんな戦いぶりを見せるだろうか――。
 
取材・文:広島由寛(週刊サッカーダイジェスト)
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