「うちにはまだ久保がいるじゃないか」。浦和戦に見るFC東京の試合運びの妙

2019年03月31日 白鳥和洋(サッカーダイジェスト)

久保は控えでも存在感を示していた

浦和戦で先制点の起点となった久保。写真:サッカーダイジェスト

[J1・5節]浦和11FC東京/3月30日/埼玉スタジアム2002
 
 最終的には追いつかれてのドロー。悲劇的な結末とも言えるが、当然ながらポジティブな面もあった。
 
 正直、立ち上がりの出来は良くなかった。久保をスタメンから外したFC東京は仕掛けや崩しの局面で単調になり、キックオフからしばらく浦和に押し込まれる時間帯もあった。
 
 しかし、ここで崩れないのが今季のFC東京だ。とにかく守備が堅い。自陣のエリア付近までボールを持たせても、そこから先はCBコンビの森重とチャン・ヒョンスを軸に粘り強く跳ね返す。髙萩と橋本の両ボランチも含む守備ブロックは選手個々の能力が高いうえに組織的にも機能しており、まさに難攻不落の要塞と化していた。
 
 そして試合はいつしか「浦和がボールを握っている」から「浦和が攻めあぐねている」という展開に変わってきたように映った。前半が終わる頃には拮抗した状況になり、むしろFC東京ペースになった印象さえある。堅守をベースに苦しい時間帯を耐え凌ぎ、徐々にゲームの流れを引き寄せた点で、FC東京の試合運びは前半に限れば上手かった。
 
 双方とも決定機を作りにくい、いわば我慢比べの様相を呈していたこの試合を動かせるとしたらベンチメンバーだった。その点で、久保という切り札を懐に持っていたFC東京はプランを立てやすかったはず。この試合を見ていたFC東京のファン・サポーターも、こう思ったに違いない。「うちにはまだ久保がいるじゃないか」と──。そういう捉え方をすると、控えながら久保は十分な存在感を示していた。
 
 そして投入されてからも久保は魅せた。キレのある攻撃で浦和の守備陣を混乱。75分には力強いドリブル、絶妙なスルーパスでチャンスを演出して、そこから東のクロスにD・オリヴェイラがヘッドで叩き込み、先制点を奪う起点になった。この日に限れば、間違いなく久保はオフェンス面で大きな違いを作り出していた。
 
 してやったり──。ここまでの試合運び、長谷川監督の采配はパーフェクトに近かったと言えるだろう。だが、埼スタはやはり鬼門(FC東京は03年以来このスタジアムでのリーグ戦で未勝利)だった。後半のアディショナルタイム(90+4分)、しかもラスト1プレーで森脇に同点弾を沈められたのはツキに見放された部分もあった。
 
 負けに等しいドロー。室屋などは「ゼロに抑えなければいけなかった」と悔しさを露わにしたが、結果は結果である。交代枠を2枚残した長谷川監督は敗因のひとつに「クローザー不在」を挙げたが、それも結果論であり指揮官の采配を批判するのは違うような気もする。いずれにしても、大事なのは東が言うとおり「次のホームゲーム(清水戦)だ。
 
 思えば昨季、FC東京は後半のアディショナルタイムに逆転弾を叩き込まれたG大阪戦(21節)からリーグ8戦未勝利と大きく崩れた。浦和戦のドローを引きずることなく、気持ちを切り替えて清水戦に臨めるかがなにより大事だ。
 
取材・文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)
 
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