【番記者通信】腰を据える覚悟こそ再建への道|ミラン

2014年03月15日 レナート・マイザーニ

「CLのアンセムを聞くと――」は、もはや幻想でしかない。

“得意なはず”のCLでもアトレティコに惨敗。不振を極めるミランに必要なのは、育成路線に完全に舵を切る、腰を据えた再建策とそれをやり抜く覚悟だろう。 (C) Getty Images

 敵地ビセンテ・カルデロンでの惨敗は、近年のチャンピオンズ・リーグ(CL)でミランが演じた失態のひとつでしかない。CLのアンセムを聞くとチームはどういうわけか復調する。大会との相性の良さを強調するこの喧伝は、もはや幻想でしかない。この5年間でベスト8に駒を進めたのは2011-12シーズンだけで、それ以外はすべて決勝トーナメント1回戦で敗退している。

 アトレティコ・マドリーとの第1レグは不運な敗戦だったとはいえ、アウェーの第2レグはとりわけ守備で限界を晒した完敗だった。個のレベルでの劣勢はもとより、クラレンス・セードルフ率いるチームは、ディエゴ・シメオネのチームにまるで歯が立たなかったのだ。彼らはより活力に溢れ、アグレッシブで、そして率直に強かった。

 資金力不足による戦力の不備に敗因を帰す向きがある。ミランに限らず、イタリア勢の国際舞台での競争力低下はそれが原因だとする声だ。一理はあるだろう。だが、それがすべてでは決してない。

 湯水のようにカネを注いで補強をしなくても、良いチームを作る手段はある。もっとも、それは今のミランが実行している方法、すなわち移籍金ゼロの選手を主体とした強化ではない。今冬に獲得したマイケル・エッシェンもアデル・ラミ(今シーズンはバレンシアからのレンタルで、今夏に移籍金ゼロで完全移籍の予定)も、それぞれチェルシーとバレンシアから戦力外とみなされていたのだ。言葉は悪いが、他のビッグクラブの“不良品”を使って、CLで存在を主張できるだろうか。その答はピッチが厳粛に下す。宣告されたのは、ただ一言、「ノー」だった。

 アトレティコのやり方は参考になるかもしれない。ラダメル・ファルカオをモナコに売却して8000万ユーロ(約112億円)を得たものの、今冬の移籍市場を含めた今シーズンの補強額は合計で3600万ユーロ(約50億円)だ。大ブレイク中のジエゴ・コスタは、3年前にバジャドリーから80万ユーロ(約1120万円)で買い上げている。ファルカオをポルトから獲得した際はそれなりの移籍金を支払っているものの、それはマンチェスター・シティに譲渡したセルヒオ・アグエロの売却益で賄った。

 投資できる元手がなければ、必要なのは忍耐だ。再建を遂げるには、若手の育成に道を絞るより他にないだろう。実際ミランはその方針を採ったものの、結局長続きはしなかった。ファンはプレッシャーを掛け、ただちに成功を求める。移籍金ゼロの選手補強に走ったクラブは一方で、マリオ・バロテッリやアレッサンドロ・マトリ(現在はフィオレンティーナにレンタル中)などに資金を注ぎ込まざるを得なくなった。

 ファンにとって、育成路線に舵を切ることは弱体化を意味する。結局クラブもレッテルを張られるのを嫌がり、無駄に中庸を取ろうとしてさらに墓穴を掘り、100万ユーロ単位のカネを捨てることになる。詰まるところ、イタリアのクラブに欠けているのは、組織力と強化ビジョンを継続させる意思だろう。いまのミランのように、ダラダラと低迷を続けるよりは、覚悟を決めて組織の刷新を図ったほうが得策に思えるが……。

【記者】
Renato MAISANI
レナート・マイザーニ
1985年カターニャ生まれ。2006年から地元紙やWEB媒体でキャリアを積み、ミラノに軸足を移して活動の場を拡げる。現在はイタリア国内の著名ポータルサイトの編集員。国外サッカーにも通じ、地元紙でフランス・リーグのレビューを連載中だ。

【翻訳】
神尾光臣
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