前言を翻して踏み切ったバロテッリ獲得の「なぜ」 【リバプール番記者】が紐解く真相

2014年09月22日 ジェームズ・ピアース

コレクティブなサッカーを壊しかねない危険因子。

ロジャース監督はなぜバロテッリ獲得に踏み切ったのか。地元紙番記者の筆が真相を紐解く。 (C) Getty Images

 ブレンダン・ロジャースはマリオ・バロテッリの獲得を望んでいなかった。
 
 プレシーズンのアメリカ遠征で、ロジャース監督は明言した。マイアミでの記者会見だ。バロテッリ獲得の可能性を問われ、
「マリオ・バロテッリがリバプールに加入することはない」
 そう断言した。
 
 その時点では、それは本意だった。コレクティブなサッカーを志向するロジャースにとって、バロテッリは危険因子にしか映らなかった。ようやく完成に近づきつつある組織サッカーを壊しかねない奔放な天才肌は、まったく望んでいなかったのだ。
 
 そのわずか3週間後である。メルウッドのトレーニングセンターにバロテッリが現われたのは。駆けつけた数百人のサポーターからの大声援を背に、リバプールの一員となったのである。移籍金は1600万ポンド(約27億2000万円)。問題はあるとはいえ、フットボーラーとしての才能に疑いの余地はなく、24歳とまだ若い。バーゲン価格と言える値段だった。
 
 それにしても、なぜロジャースは前言を翻し、バロテッリを迎え入れたのか。
 
 最大の理由は、選択肢が残されていなかったからだ。バルセロナに放出したルイス・スアレスの穴を埋める後釜候補は、もはや数が限られていた。
 
 ロジャースが第一候補に挙げていたアレクシス・サンチェスは、アーセナルにさらわれた。
 
 次善の選択肢だったロイク・レミは、メディカルチェックで問題が見つかった。保有権を持つQPRとは850万ポンド(約14億4500万円)の違約金の支払いで合意したが、メディカルチームが首を縦に振らなかったのだ。ちなみに、レミはその後チェルシーが獲得し、先日のデビュー戦でゴールを決めている。
 
 次に狙ったウィルフリード・ボニは、条件が折り合わずに交渉が決裂した。スウォンジーは1900万ポンド(約32億3000万円)の移籍金を、ボニは週給10万ポンド(約1700万円)のサラリーを断固として譲らなかったのだ。
 
 空振りが続き、ややパニックに陥ったロジャースは、ラダメル・ファルカオ(移籍期限最終日にモナコからマンチェスター・ユナイテッドへ)、エディンソン・カバーニ、カリム・ベンゼマといったトップクラスのストライカーに接触したが、いずれもほぼ門前払い。
 
 チェルシーを退団してフリーのサミュエル・エトーも検討した。だが、33歳のベテランは明らかに機動力が低下し、行動半径が小さくなっているうえに、キャラクター的にも問題がある。選択肢には加えられなかった。

次ページ同じく問題児のスアレスをワールドクラスに育て上げた自負。

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