リアル「南葛SC」誕生の原点―ー高橋陽一氏が抱く“おらが街のクラブ”への想い

2019年03月27日 長沼敏行(サッカーダイジェストWeb編集部)

「地元に応援できるチームが欲しかった」

葛飾区が一望できる仕事場のビルの屋上で撮影。デビュー当時から一貫してこの地で漫画を描き続けてきた。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

 漫画『キャプテン翼』の原作者、高橋陽一氏が代表取締役を務める「南葛SC」の2019年シーズンが始まった。戦いの舞台は東京都リーグ1部である。南葛SCは3月24日の開幕戦で明治学院スカーレットを相手に2対2のドロー発進。幸先の良い勝利とはいかなかったが、シーズン開幕戦という緊張感のある難しい試合で勝点1をもぎ取った。
 
 関東社会人リーグ2部昇格を目指す長丁場のシーズンは、まだまだ始まったばかりだが、クラブは「南葛SC」として活動を始めて7年目。地元の盛り上がりも年々高まりを見せているようだ。
 
 代表である高橋氏は、自らが生まれ育った東京・葛飾区に「ゆくゆくは全国、そして全世界に愛されるような」クラブを作りたいと夢を語る一方で、「地元の東東京の人々に応援していただけるチームを作りたい」という想いを併せ持つ。
 
『キャプテン翼』というバックボーンを持つだけに話題性は十分のクラブだが、Jリーグの「地域密着」という理念と同じ志で、地域に根差し支えられた"おらが街"のクラブを目指す高橋氏。その想いについて明かしてくれた。
 
――◆――◆――
 
 漫画『キャプテン翼』の主人公、大空翼が所属した「南葛SC」の由来が、高橋氏の母校、都立南葛飾高校にあるのは、熱心なファンなら常識の範囲内なのかもしれない。高橋氏は、漫画家としてデビューして以来、一貫して葛飾の地で仕事を続けてきた。
 
 ただし、それほどまでに、この地にこだわりがあったのかと言えば、「いや、特にそういうものはなかったんです。引っ越しするのも面倒ですし(笑)。東京生まれの東京育ちなので」と話すように、自然体で生まれ育った街を受け入れてきた。漫画の中の風景も「思い入れというより描きやすかったから」という理由で、最寄り駅の商店街や近くを流れる荒川の土手など、地元の風景をベースにしたという。
 
 しかし、そこまで特別な地元意識はなかったとはいえ、サッカーへの想いはまた異なるものがあったようだ。
 
 Jリーグが日本に誕生して以降、「当然地元のチームを応援したいなという気持ちはあったんですけど…」と語る高橋氏。下町生まれの自身にとって、本当の意味で"おらが街"のJクラブはいまだ存在しないのだという。
 
「FC東京にしても、どうしても東の下町に住んでいる人間にしてみると、西のほうにあるチームというイメージで、東のほうに応援するチームがなかったんです。だったら、自分で作ろうという想いは、いつしか持っていましたね」
 
 さらに、仕事上の取材で海外を回るうちに、"おらが街のクラブ"への憧れも膨らんだ。地元に応援するクラブがなかった高橋氏にとって、その光景はどれほど輝かしく見えたことだろう。
 
「やっぱりヨーロッパや南米だと、当然大都市にはいくつもクラブがあるんですけど、地方の離れた町でも、おらが街のクラブがあって、どこにでもサッカースタジアムがある。その街の人たちが自分たちのクラブを応援する、そういうのがすごくいいなあと思っていました。やっぱり、そういうクラブが生活の中に欲しいなと思っていたんです」
 
 そして6年前の2013年、葛飾区を拠点に活動していた「葛飾ヴィトアード」からの依頼を機に、高橋氏の長年の夢が実現することになる。
「当時のチームの代表の方から協力してくれないかという話があり、それじゃあ南葛SCというふうに名前も変えてやりましょうか、となっていきました。自分も漠然とですが、東のほうで応援できるチームが欲しいと思っていたので」
 
 こうして『キャプテン翼』が生まれた街、東京・葛飾区に、本格的にJリーグの舞台を目指して戦うクラブチーム「南葛SC」が誕生した。
 

次ページ「J7のサッカーにもトップクラスとは違う魅力がある」

みんなにシェアする
Twitterで更新情報配信中

関連記事